内容説明
大戦中、ナチが組織的に殺害していったのはユダヤ人ばかりではない。ドイツ本国と占領地のすべての障害者もまた、「安楽死」の名の下に整然と殺されていった。その数は25万人といわれている。にもかかわらず、近年になるまでこの「事実」はあまり知られてはいなかった。本書の著者は、西部ドイツのある障害児施設の沿革を取材するうちに、このナチによる障害者殺戮の恐るべき記録に出くわした。この施設からだけでも800名近くの収容者が、「灰色のバス」に乗せられて行く先もわからぬ地へと強制移送され、そのほぼ全員が、二度と帰っては来なかったという。本書は、それらの犠牲者たちのたどった運命を、すべて事実にもとづいて生々しく再現したノンフィクション・ノヴェルである。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
fwhd8325
61
戦争が人を狂気に変えていくのか、そもそも人が狂気の生き物なのだろうか。日本でも生体解剖があった事実があるなど、フィクションでないことに複雑でやるせない気持ちになります。今起きている愚かな行為の裏側にこんな事実がないことを祈ります。2022/06/26
やっち@カープ女子
44
大戦中、25万にものぼる障害者が安楽死の措置を受けたという事実。これは生々しく再現されたノンフィクションノベルだが、私はこの本を読むまで知らなかった。ユダヤ人大量虐殺と並んでナチ時代の最もおぞましい事実だと思う。重い事実を受けとめるのが本当に辛かった。2015/09/20
4fdo4
15
「人間の心の奥には、自分の価値観に抵触するものを排除しようとする構造がある。その構造が集団で働けば、共同体からの疎外であり、差別になる。(中略)私たちが『ナチ時代』を全体主義として非難するのであるならば、自分たちの構成している社会がそうなってしまわないよう努力を続ける義務があるだろう」 =訳者あとがきより2018/06/07
アキ
11
《ナチスがホロコーストのリハーサルとした障がい者虐殺》表だって語られてこなかった事実が、創立百周年記念誌編纂の過程で発見された施設長の日記から蘇る。何万とも言われる犠牲者の数でなく、抵抗する術もなく突然、死に追いやられた一人ひとりのことを、記録よりも記憶として胸に刻めるよう、ありのままに小説化したこの本。欧米で盛んになった優生学は20世紀初頭、命に優劣をつけ選別する「優生思想」を広め、戦時下のドイツでは計画的大量殺戮を招き、当時の日本でも旧優生保護法として暗い影を落としたことに、無知無関心ではいられない。2022/06/17
ルナティック
6
私の読む前の姿勢が、本と合っていなかったためか、心に重く響かなかった。T4作戦の始まり、そして施設で働く人々のことを描いている。小説風なので、主人公が足が悪いという設定になっており、この主人公の心の動くを追う仕組みになっている。それを政局や制度、世間と連動させている。それは承知できるのだが、この小説風なのが合わなかったのだな。もっとドキュメンタリーが濃いことを期待していたので。T4で“学んだ”事が、その後の絶滅収容所で大いに役立って・・・ココが最初、なんだよねと思って読んだ。2018/03/22