内容説明
大戦中、ナチが組織的に殺害していったのはユダヤ人ばかりではない。ドイツ本国と占領地のすべての障害者もまた、「安楽死」の名の下に整然と殺されていった。その数は25万人といわれている。にもかかわらず、近年になるまでこの「事実」はあまり知られてはいなかった。本書の著者は、西部ドイツのある障害児施設の沿革を取材するうちに、このナチによる障害者殺戮の恐るべき記録に出くわした。この施設からだけでも800名近くの収容者が、「灰色のバス」に乗せられて行く先もわからぬ地へと強制移送され、そのほぼ全員が、二度と帰っては来なかったという。本書は、それらの犠牲者たちのたどった運命を、すべて事実にもとづいて生々しく再現したノンフィクション・ノヴェルである。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
fwhd8325
63
戦争が人を狂気に変えていくのか、そもそも人が狂気の生き物なのだろうか。日本でも生体解剖があった事実があるなど、フィクションでないことに複雑でやるせない気持ちになります。今起きている愚かな行為の裏側にこんな事実がないことを祈ります。2022/06/26
天の川
54
障害児施設フランツ・サーレス・ハウスにおけるT4作戦の実態に関するノンフィクション小説。優生思想とナチズムが結びつき、ヒトラーは障がい者の殺害を命じる。施設に何度となく公共患者輸送会社の灰色のバスがやって来る。表向きはより良い施設への移送。施設職員や司祭、修道女が彼らを守るために東奔西走するものの移送を止めることはできなかった。培われた手法はホロコーストで最大限の効果を発揮する。職員や教会関係者、心ある人々が子ども達の隠匿に命懸けで協力しても助けられたのは数人でしかない。このテーマの本を読むたびに思う。⇒2022/08/18
ネギっ子gen
45
天の川さんの紹介を受け――。【ナチが組織的に殺害したのは、ユダヤ人ばかりではない。障害者もまた「安楽死」の名の下に殺されていた。この「事実」はあまり知られていない】本書の施設だけでも、800名ほどの収容者が強制的に「灰色のバス」に乗せられ、ほぼ全員が二度と戻らなかった――。ノンフィクション小説だが、<この小説は事実に基づいている。わたしが描き出す人物も出来事も、現実のままであるが、しかし、おそらくそうであったに違いないと思われる部分を補った点もある>と。読後、頭に「相模原障害者施設殺傷事件」のことが……⇒2022/09/11
やっち@カープ女子
44
大戦中、25万にものぼる障害者が安楽死の措置を受けたという事実。これは生々しく再現されたノンフィクションノベルだが、私はこの本を読むまで知らなかった。ユダヤ人大量虐殺と並んでナチ時代の最もおぞましい事実だと思う。重い事実を受けとめるのが本当に辛かった。2015/09/20
4fdo4
15
「人間の心の奥には、自分の価値観に抵触するものを排除しようとする構造がある。その構造が集団で働けば、共同体からの疎外であり、差別になる。(中略)私たちが『ナチ時代』を全体主義として非難するのであるならば、自分たちの構成している社会がそうなってしまわないよう努力を続ける義務があるだろう」 =訳者あとがきより2018/06/07