出版社内容情報
ユングは、≪ある心理学的言明は、その反対もまた真である時にのみ、真である≫と述べた。人間とは、一つの逆説的な存在であり、それゆえ心理学もまた逆説的なのだ。本書は個々人および社会の集合的なものに、逆説・矛盾でもって接近する。各章冒頭で、まさに当を得た格言が述べられるが、続く本文では、それらとま逆のことが書かれる。にもかかわらず、その格言は各章ごとの内容と同じく、またそれも真なのである。ユング心理学の重鎮による全く新しい善悪論。
内容説明
善人も悪の、悪人も善の側面を持つ。そんな矛盾をはらむ人間や社会の姿を「逆説」から考察する。心理療法家として数々の人間の矛盾に遭遇してきたユング派の重鎮・グッゲンビュール=クレイグ最後の思索。
目次
第1章 創造性・自発性・自立性―悪魔の三人の子どもたち
第2章 恐ろしい父親―健全な子ども
第3章 非凡な父親の息子と娘たち
第4章 子どもの性的虐待の現実と神話
第5章 暴力の祝福
第6章 ヨーロッパにおけるナショナリズムの喜ばしき復興
第7章 ヨブに答えず
第8章 バジリスク、あるいは従属しないセクシャリティ
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Akihiro Nishio
20
訳者から献本で貰ったので読む。世の中で良いものとされている自発性、非凡、あるいは優しい父にも心理的には悪があり、あるいは悪いものとされている性的虐待、暴力、ナショナリズム、セクシュアリティ、病気にも心理的な必要性があるという話。善悪の対立が章毎に明示されているので理解しやすい。一方で、こうした問い自体が古いんじゃないかとも感じる。原著は1992年の発刊で、その頃は圧倒的に善、あるいは悪と信じられていたことも、もはやそのように信じられてはいないのではないだろうか。もう少し新しい本を訳した方が良かったのでは。2019/11/21
evifrei
10
暴力や虐待など所謂社会悪に属する悪について、ユング派心理学の見地を加えながらプラスの側面を示す。悪の中に善を見出だすというタイトル通りのラディカルな視点というより、価値中立的な見解に落とし込まれた結論に至ることの方が多い。ただ、性的虐待の被害者を『神に見捨てられた者』として宗教的原型への接近として捉える点などは懐疑的。著者が示すように性的虐待にも度合いが様々であり、おおよそ虐待とはいえないもの迄トラウマとして記憶される事は確かに深層心理に関わるのかも知れないが、それが宗教的原型かと言われると疑問だ。2020/01/06
Go Extreme
3
創造性・自発性・自立性―悪魔の三人の子どもたち:神コンプレックス 恐ろしい父親―健全な子ども:一面的な神話イメージ 非凡な父親の息子と娘たち:呪いとしての非凡な父親たち 子どもの性的虐待の現実と神話 暴力の祝福 ヨーロッパにおけるナショナリズムの喜ばしき復興 ヨブに答えず バジリスク、あるいは従属しないセクシャリティ2021/11/22
しょうゆ
1
「ある心理学的言明は、その反対もまた真である時にのみ、真である」この命題に象徴されるような心のパラドキシカルな側面についてありとあらゆる方向から突き進み、人間の非力さ、矛盾ありきの姿を説明していく本である。「謙虚さを認めること、悲劇を受け入れること、そして戯れを楽しむこと」で癒しは訪れるというのが、この本を通して著者が伝えたかったことだろう。一般向けの読書として、どこまで理解されうるだろうかとも思うが、心理学者としてはとても面白く、興奮する一冊であった。訳も美しい。2021/10/31
のせなーだ
0
2020年にこの本を読むのは、とっても遅かった。序文に日付があったら。。新しい出会いを期待したけれど、そこは残念でした。2020/03/07