内容説明
生物学・医学をはじめとする科学技術の進展は本当に社会を変えたのか?むしろ従来の歪みを露わにしただけなのではないか?生殖技術から、幹細胞研究、うつ病治療、そして福島第一原発事故にいたるまで、人々の生を選別し分断する社会の現在を鋭く分析する。
目次
序章 3・11“以前”、科学“以外”
第1章 家族のバイオ化―生殖補助医療技術
第2章 未来のバイオ化―遺伝子医療と出生前診断
第3章 資源のバイオ化―幹細胞科学
第4章 信頼のバイオ化―マインド・リーディング
第5章 悲しみのバイオ化―抗うつ薬
第6章 痛みのバイオ化―腰痛とその治療
第7章 市民のバイオ化―原発事故
著者等紹介
粥川準二[カユカワジュンジ]
1969年生まれ、愛知県出身。ライター、編集者、翻訳者。「ジャーナリスト」と呼ばれることも。国士舘大学、明治学院大学非常勤講師。博士(社会学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Mealla0v0
0
ベースとなるのは、M.フーコーの生権力の議論。とりわけ、『社会を防衛しなければならない』の最終日に登場する「生権力の限界に現れる逆説」としての「原子力権力」だ。粥川は現代社会において、あらゆるものが「バイオ化」することへの懸念を表明するが、その「バイオ化」なる現象は、生政治の新たな戦略というわけだ。技術の発展が、それまで病気でなかったものを「病気」と見做し「治療」を行っていく、社会問題が遺伝子学化していく、というような。最期に被曝が人口の分断線となることを指摘する。▼文体がジャーナリスティックなのは残念。2017/06/13
なご
0
21世紀はバイオの時代と言われたことをよく耳にしたが、全くそのとおりだと思う。 バイオ化が医療などを進歩させる一方、経済的、社会的な問題にもバイオの視点が大きく関わるとは思いもよらなかった。 出典がかなりしっかりしていて、かつ新たな考え方を示してくれるとても面白い本。2014/05/30
koillmatic
0
新たな次元でわれわれの生を抽象化するようなライフサイエンスの進展をもたらしたのは、バイドール法といった米国のプロパテント政策であったり、ベンチャーキャピタル文化であったりしたわけである。 決して科学だけが社会や人間の様相を規定しているのではなく、社会の制度や規範もまた、科学を規定している。その意味で、科学革命以降のわれわれの生は重層的に決定されている(cf.アルチュセール)ことを忘れてはならないだろう。 日本でも先日、幹細胞の臨床研究が解禁になった。国家の基幹技術として再生医療への期待がますます高まる中2013/07/13
Aoki
0
「バイオ化」がキーワード。単に医療面だけではなく、政治・経済・社会的な側面からの問題点を含有している点が、著者が訴えたいポイント。不妊治療では商業化と女性のみ負担増という現実。遺伝子治療・DNA診断・出生前診断では、障害の有無が欠陥とされ生産ラインを止めるように中絶するという製品的評価と倫理の問題。fMRIなど脳スキャンでの嘘発見は信頼のバイオ化。うつ病治療のバイオ化。腰痛は社会的な痛み?3.11原発による見えてくる生物学的人権とは。決して読みやすいとは言えないけれど、バイオ化のキーワードで現在社会の問題2012/07/18