出版社内容情報
現代の犯罪政索批判として注目された前著『排除型社会』の議論をさらに深め、「排除/包摂」のパラダイムの理論的精緻化の試み。
内容説明
テロリズムへの不安、移民、暴動、厳罰化。仕事やコミュニティや家族の急速な変化。セレブリティとワーキングプア―『排除型社会』で社会的排除を尖鋭に描いた社会学者が、経済的・社会的な不安定さと剥奪感をもたらす「過剰包摂」の問題を摘出し、新たな政治への理論基盤を提示する。
目次
第1章 境界線を越えて
第2章 ゆらぐ二項対立ビジョン
第3章 復讐心の社会学/違犯の犯罪学
第4章 カオスと秩序の再編
第5章 労働の衰退と不可視化された使用人
第6章 社会的包摂と労働をつうじた代償的救済
第7章 境界を越える―風雨吹きすさぶ海岸に
第8章 テロリズムと「反テロ」というテロリズム―悪の凡庸
第9章 排除型コミュニティ
結論 他の場所への道
著者等紹介
ヤング,ジョック[ヤング,ジョック][Young,Jock]
1942年生まれ。社会学、犯罪学。ケント大学、ニューヨーク市立大学教授
木下ちがや[キノシタチガヤ]
1971年生まれ。政治学。一橋大学大学院社会学研究科博士課程
中村好孝[ナカムラヨシタカ]
1974年生まれ。社会学。滋賀県立大学人間文化学部助教
丸山真央[マルヤママサオ]
1976年生まれ。社会学。日本学術振興会特別研究員(PD)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ゆう。
33
本著は、イギリスのブレア政権の「第三の道」に対する批判を念頭に、今日の資本主義社会の持つ排除型社会に対して新しい社会の方向性を考察したものだと思います。ブレア政権はブレア型包摂社会をめざし福祉から就労へと新自由主義を受け入れつつの福祉国家の変質をめざしたと僕は認識していますが、そのため本著では単純な二項対立から「過剰包摂」という概念を使い複雑化した社会問題に対応しようとしているのだと思いました。全体的に難しかったのは僕の勉強不足ですかね。良書だと思います。2018/11/13
なっぢ@断捨離実行中
9
「現代日本あるある」過ぎてどこから語ればいいか迷ってしまうので相違点から見ておく必要がある。本書は二大政党制の米英を前提にしており、第三の道やポストモダニズムを批判し偽りの二項対立を脱構築する、といった図式が僅かな期間を除いて一党支配が続く日本にはそのまま当てはまらない点は留意すべきかと。そもそも脱構築自体が弁証法的構築を前提した思考図式なので、前近代と後期近代が特に葛藤もなく共存するこの国では近代による批判が未だ有効なのだ。しかしポストフォーディズム状況下における過剰流動性が存在論的不安を(以下堂々巡り2017/02/20
awe
5
『排除型社会』ほどではないが面白い。「過剰包摂」概念がいい。要はマートンが言ってた話と同じと思うんだけど、主流社会の価値観を内面化する=文化的に包摂されるにも拘らず、社会経済的には排除されており、その結果そうした状況に置かれた移民2世などが犯罪に走るというような現象を示す概念。これは何なら性愛の領域の話でも言えるなと思った。主流社会の恋愛至上主義を強烈に内面化するも「スペック」「コミュ力」がたりない故に、非人道的な恋愛工学に走ってしまう現象とか。で、こうした概念をベースに、ヤングはリベラル/保守に共通する2020/10/24
msykst
4
話題になったのはかなり前だけど、ヘイトやらBrexitやらを受けて。論旨は前著『排除型社会』とほぼ一緒で、コミュニティの変化やら雇用の流動化やら存在論的不安と、そのバックラッシュとして本質主義や排斥が起こっとると。で、多文化主義とかリベラルの対応もいけてねーと。処方箋も前著同様「変容的多文化主義」とかそんな話。ともすれば厭世コラムっぽくも見えるけど、ブレア(=ギデンズ)の政策批判として書いてるのでその辺押さえないと本意は掴みにくい。とはいえ残念ながら、この状況認識はいよいよアクチュアルになってきたと思う。2016/08/15
まつゆう
2
労働による包摂も過剰な排除も「彼ら」をアンダークラスとして他者化していることの問題を描いていて論旨も展開も巧い。ただ解決として「変容的多文化主義」というのはごもっともなんだが、それ自体が「彼ら」から離れた語彙のようで、さしずめ著者は弁えたエリートというところか。安心する一方、手放しでは喜べんなという気もしてくる。2016/12/10