内容説明
激しい反論を浴びつつも、数えきれない実験から原子の存在を確信し、量子力学・カオス論への道を拓きアインシュタインの出現を促した物理学の巨星ボルツマン。世紀末ウィーンの渦中で苦闘するボルツマンの姿に、科学者固有の情熱と執念を探る第一級の科学読本。
目次
1 ボンベイからの手紙―忘れられた教え
2 見えない世界―熱と呼ばれる運動
3 ウィーンのボルツマン博士―未熟な天才
4 不可逆的変化―エントロピーの謎
5 「あなたはやっていけない」―威圧するプロシア人
6 イギリス人の参加―牧師、弁護士、物理学者
7 すぐに大間違いを大発見と勘違いしてしまう―哲学が物理学を誘惑する
8 アメリカの革新―新世界、新思想
9 新しいものの衝撃―原子の世紀の到来
10 天のベートーヴェン―心の影
11 驚異の年、死の年―アインシュタインが登場し、一人の男が倒れる
著者等紹介
リンドリー,デヴィッド[リンドリー,デヴィッド][Lindley,David]
ケンブリッジ大学で理論物理学を修了。フェルミ国立加速器研究所研究員、「ネイチャー」誌編集員などを経て、現在は「サイエンス」誌編集員
松浦俊輔[マツウラシュンスケ]
名古屋工業大学助教授
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感想・レビュー
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saito
1
統計物理学の始まりとその中心的人物であったボルツマンの生涯が詳細に語られている。今でこそ当然のように受け入れられている理論物理学だけど、当時の科学観からするとそれほど自明な概念ではなかったという事に驚いた。知覚できず実証もされていない原子を持ち出した上、決定論的な当時の世界観において確率統計を用いてそれらを記述した事への戸惑いを少しは理解できたような気がする。そんな否定的な空気感がある中、統計物理学を基礎から築き上げたボルツマンは間違いなく偉人だと思った。2012/04/23
長谷川透
1
原子が存在するかどうかが不明な時代。原子が物質ではなく、概念に過ぎなかった時代。今では当たり前の科学法則も、哲学的な命題を前に、否定される。ボルツマンは偉大な物理学者ということしか知らなかったので、彼の人間性を示してくれたこの本に感謝したい。2011/06/07
しょ~や
0
1900年代の科学史は躍動感がすごくて大好きなんだが、その前夜についてはあまり知らなかった。この頃まで原子の実在論争すらこんなに白熱してたなんて。哲学と科学の距離も難しいなと。2017/09/18