出版社内容情報
2024年ノーベル文学賞受賞を機に大特集。傷をつくるのも癒すのも同じ人間であるということを、 ハン・ガンは果てしないスペクトラムとして物語の中に描き出す。『菜食主義者』『少年が来る』『すべての、白いものたちの』『別れを告げない』……数々の名作によって導き出されてきた他者への愛が、惨たらしい暴力の中にある人間の生の儚さを照らす灯として、いま世界中で必要とされている。ハン・ガンの苛烈なまでに静謐な作品風景に迫り、さまざまな痛みと回復の過程を見つめる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
フム
29
ユリイカ1月号が、ハン・ガンの特集と知り、すぐに注文した。ちょうど『別れを告げない』を読んだばかりだ。多くの論者の解説で自分の読みも深まった。韓国は戦前の日本の植民地支配、南北への分断、軍事政権への抵抗、民主化運動の中で起きた虐殺など、歴史的なトラウマを抱えている。しかも暴力や傷、痛みを負った人たちの声は長年封じられていた。今も歴史修正主義とも言えるような、悲劇をなかったかのように声を上げる人々も存在する。そんな中でハン・ガンは痛みを負った人々の聞かれることのなかった声を掬い取るように可視化して見せた。2025/01/15
かふ
21
ハン・ガンの入門書としてレベルが高いかな。翻訳者の斎藤真理子と精神科医の宮地尚子の対談はわかりやすかった。ハン・ガンが光州事件から受けたトラウマが4.3事件の『別れを告げない』で結実していく。当初は雪の三部作になるはずが、一本の作品になったということ。また次の作品は雪だるま女の話で部屋に入れないで外をさまよっているうちに男と巡り合うという喜劇調の作品のようだ(ただ結末は溶けてしまうので悲劇)。あと『菜食主義者』で個人のトラウマが韓国社会の事件のトラウマになりノーベル賞ということだった。2025/02/05
二人娘の父
6
読みごたえあり、のハン・ガン特集。生まれて初めて「ユリイカ」を手にしたが、寄稿文の質の高さに圧倒される。巻末の全著作解題を見て、未邦訳作品の多さに驚く。読みたいです。小山内園子さんの訳すハン・ガン読みたいです。2025/04/30