内容説明
虚無に向かって、忘却に逆らって歌うこと。東西の神話、ベックリーンの絵画、シベリウスの音楽、ボードレールの文学などを共鳴させる福永武彦最後の長篇『死の島』。「魂の死」をめぐるこの小説を、トポスを通じて開かれた世界として読み直す。
目次
第1部 死の島の方へ(小説の方法;小説家の形成;孤独と深淵)
第2部 死の島というトポス(「死の島」の北方性;橋と艀;死の色としての白)
終章 オルフェの目覚め
著者等紹介
岩津航[イワツコウ]
1975年大阪生まれ。文学博士。現在、金沢大学人間社会学域准教授。専門分野はフランス文学、比較文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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月
3
ベックリーンの死の島(絵画)とシベリウスのレンミンカイネン組曲(音楽)は、今も僕のなかで小説「死の島」の重要なイメージとして残り続けている。そして、死の色としての白(太陽)も。孤独と深淵、死の島の北方性を含め、各章、非常に興味深く、福永考を刺激する一冊だった。著者は言う、死者を探し求めて歌う者、生きながらに死者の国へ赴き、喪失とともにそこから還ってくる者は、みなオルフェの末裔である。思えば、福永の作品は、その殆どがオルフェ的エクリチュールに貫かれていると。2020/02/16
季奈
0
他者が内包する虚無の意識に向かい、我々が文学を通じて呼びかけることは、答えの出ない問いであり、かえって喪失感を強めることとなる。 しかし、言葉を媒介の手段として用いることは、扱う者にとって最も易しく、そして普遍的に、虚無と虚無とをつなぐ方法となり得るのに加え、忘却への反抗をも可能とする一手段となる。 また、死のイメージカラーとしての白は、雪を経由して想起された色で、無垢さや純粋さといった事柄から、ノスタルジーを感じさせる幼年期を、生誕と死が共存する妣の國への懐郷とアナロジカルに見たことの帰結であった。2021/07/07