内容説明
20世紀に人類史上初めて登場した「開発援助」という現象は、価値観を異にするアクター間の相互行為である。援助をはさんで向かい合う「援助者=我々」と「被援助者=彼ら」の間に生起する事象の考察を通して、関与の学としての「開発援助の社会学」を模索する。
目次
第1部 開発援助を社会学的に見る(社会が発展するとは;近代化という呪文;開発援助という行為と用語;プロジェクトと社会)
第2部 開発援助の現場から(健康な生活(1)プライマリ・ヘルス・ケア
健康な生活(2)感染症対策
環境に働きかける
貧困削減と住民組織化 ほか)
著者等紹介
佐藤寛[サトウカン]
1981年東京大学文学部社会学科卒、アジア経済研究所入所。1985‐88年、1997‐99年の二度にわたってイエメンに駐在。イエメンの社会変動に関する調査を継続する一方、1990年代から社会学・人類学的視点による「援助研究」を開始。援助プロジェクトの社会的影響を知るために、様々な途上国のプロジェクトにお邪魔している。また戦後日本の農村生活改善運動の研究のために、当時の若妻(現在70‐80歳代)たちへのインタビューも継続中。いずれもなかなか楽しい仕事である。現在アジア経済研究所開発研究センター主任研究員、国際開発学会理事(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Mealla0v0
4
多くの途上国にとって発展とは近代化(工業化)であり、それは先進国の援助者の考える望ましさとは必ずしも一致しない。したがって、援助者の意図はどうあれ、開発援助とは近代化を促進する営為となる。第一部では近代化や開発について理論的に纏められ、第二部では具体的事例が取り上げられている。事例で興味深いのは、プロジェクトを仕掛ける側が意図している行動を被援助者が取るとは限らない。途上国側のニーズを把握することが大切なのはもちろんだが、だが他方でそうしたニーズをすべて受け入れていてはプロジェクトの運用は難しい。ジレンマ2023/07/11
とある本棚
4
面白い。一気に読んでしまった。開発援助のもつ権力性を炙り出しつつ、実際のプロジェクトの成功例と失敗例を挙げて、実務家や研究者が気をつけるべき点を沢山指摘している。「短期間調査にやってきたドナーが思いつくようなことは、既に現地人は検討済み」というのはまさにその通りであり、ドナーはあくまで自分が一時的な部外者であることを自覚した上で、何ができるか誠実に現地の人と向き合うことが求められる。途上国では汚職はよく見られるが、かくいう日本も19世紀には公務員が賄賂を要求することがあったとは知らなかった。2022/08/07
takao
2
ふむ2025/01/10
上高野
1
開発援助についてよくまとまった「教科書」。ここで検討の対象にされていない点。現地の「ニーズ」というのがくせ者。現実に援助申請をするのは現地の政府の人間だ。現地住民のニーズが往々にして、援助が得やすい、自分の実績になる、省庁の益につながることに変質する。受けた日本側の援助機関では、これが「上」に通りやすい援助計画に姿を変えて行く。結果、現地住民のニーズとはかけ離れた援助計画が出来上がる。素の現地ニーズがどのように変質し援助計画に仕立て上げられるか、そのプロセスの検証と是正・監視方法を検討ねがいたい。2008/12/14
Akihiro Nishio
0
教科書のように、理想的なことが書かれているわけではなく、うまくいったプロジェクトよりも、失敗したプロジェクトを取り上げてくれている(むしろほとんど失敗している)ので、現場の雰囲気がわかる。脚注にこっそりギャグが散りばめられていて読んでいて面白い。自分が書きたいと思っている文章のスタイルだ。2011/10/13