感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
松本直哉
29
俵万智と同世代で、知名度は劣るが、歌風はだんぜんこちらが好み。境涯詠も時事詠も写生もないのが現代短歌らしくなくて良い。雅で古典的な古語のはざまにときおり茶目っ気たっぷりの現代語が混ざる、そのまざり具合も好き。新古今的というより古今的な、知的で乾いた抒情。「ふる年もふる雪もふる恋もふるさとに抱きて汝れとたづさへて」「たつぷりのレモネード置き熟睡せば愛してしまふでせうよ世界を」「あかるさや君があらぬをふと思ひやがて忘れてけりな小枯野」「白き花の地にふりそそぐかはたれやほの明るくて努力は嫌ひ」2023/06/22
あや
20
初期歌集3冊が1冊になったお得な歌集。「フムフムランドの四季」は岡山の古京文庫さんで入手したら初版本でサイン入りであった。初版たった700冊だった歌集のうちの1冊を持っているのである。岡山のホテルで貪るように読んだ。そして時を経て現代歌人文庫のシリーズ入りはおめでたい。紀野恵さんという歌人はあまり知られていない。ごく若くして角川短歌賞の次席となり天才少女と言われる。私は20代の時に在籍した結社にいた先輩歌人が好きだと言っていたのでどんな歌人かと思って「架空荘園」を手に取ったのがきっかけであった気がする。2023/05/29
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白き花の地にふりそそぐかはたれやほの明るくて努力は嫌ひ/あをあをと言葉飾れる垂髪の雪崩れ落つたる春の地の上/大粒の真珠失ひ夏はただ海のつめたさあしたのくらさ/しよくぶつに拘泥をしてゐる午後に私を沈めたまま船出を/劫初から裏切つてゐるわたくしになほ在れよとか耳を打つ雨/レモネード・あひ見ぬさきの午睡・汽車・氷つた海のいきもののこと/夏の午後また夏の午後語りてはならぬ数多と曰ふべき数多/来ぬを待つ夏のかはたれ連れ立ちてまへをゆきたるあはれ若子や/冗談よほんたうは夏ももゆる火も嫌ひ まなぶた影さして曰ふ2023/08/13