感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
だいだい(橙)
17
同人誌「西瓜」10号に掲載された拉致被害者を下敷きにした連作10首を見て「空白」にも同テーマの連作があると知り購入。自分のことを詠むのが一番「強い」と言われる短歌で、第三者への共感、その立場に立った「怒り」や「悲しみ」「理不尽さ」をどう詠むか。江戸さんほどの歌い手であっても、自らが体験しようもない拉致という極限の経験を想像して短歌にするのは困難そうに見える。しかしこれに挑戦し、強い印象を残す作品を作り続ける江戸さんに敬意を表する。お父さんの最後を詠んだ連作がずしんと胸に来る。おすすめ。2023/11/16
toron*
2
本を捨てゴルフクラブを捨て父がうつそみ立たす窓の空色 雨と虹とそして死体の温度かな朝いちばんに取り出す茶碗 ばらがきれいばらがきれいと言うひとよそれが嘘なら君を信じる かさねれば水のにおいは深くなるてのひらいつか姉弟だった まず肩がかたむき背なと首が反る人形だけができる哀しみ 椅子に寝てしずまらぬ火を抱いている天上天下紫陽花不在 強い言葉が使われていて、びっくりする歌が多い。人じゃないものの、例えば内なる獣とか神さまのような視点を借りているように思える歌もあって心情の予測のできない歌集だった。2020/10/07