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内容説明
強烈な衝撃をもたらしたあの『黄色い雨』の作家が、圧倒的な筆力でスペイン内戦の悪夢を描き切った伝説のデビュー長編、ついに刊行。
著者等紹介
リャマサーレス,フリオ[リャマサーレス,フリオ][Llamazares,Julio]
1955年、スペイン北部、レオン地方の田舎町ベガミアンに生まれる。マドリッド大法学部卒業後、弁護士となるも、ほどなくジャーナリストに転身。早くから詩人として知られ、『のろい雄牛』『雪の思い出』(ホルヘ・ギリェン賞)などを発表、次第に散文作品に移行する。1985年、初の長編小説として『狼たちの月』を発表、大きな注目を集める。ついで1988年には『黄色い雨』を刊行、海外でも高い評価を集め、わが国でも2005年に翻訳されるや多大な反響を呼び起こした。紀行文、エッセイ集などもある
木村榮一[キムラエイイチ]
1943年、大阪市生まれ。神戸市外国語大学学長。現代ラテンアメリカ文学の精力的な翻訳・紹介で知られる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
中玉ケビン砂糖
111
、「ほら、月が出ているだろう。あれは死者たちの太陽なんだよ」父親が幼少時のアンヘルに語ったこと、良い、冒頭引用「夕方、近くのブナ林でヨーロッパオオライチョウの鳴き声がした。北風が突然吹き止み、木々の痛めつけられた枝にからみついたかと思うと、一気に秋の黄ばんだ木の葉を落とした。そのとき、数日前から山々を激しく叩いていた黒い雨がようやくやんだ」2015/03/09
nobi
98
スペイン内戦から内戦終結宣言後の時代。バスク地方とともに反乱軍の凄まじい弾圧を受けたアストゥリアス地方。四部構成。各部は治安警備隊に追われる四人の男たち一人一人への挽歌とも読める。狼が生き延びるためには獲物が必要。その出現は顔見知りであった村人たちにも家族にも災厄を齎し狼たちへの情けは自らの犠牲を伴う。行動を起こすのは夜に限られる。鉱物的な月の光は清冽な水のように“ものの形よりも匂い”“風の言葉“を照らし出す。その中この物語で唯一表情の描かれない治安警備隊。その執拗さと無情さ。“治安”何という名称の皮肉。2019/02/09
(C17H26O4)
77
音楽もつけず、カメラの視線と人物の視線を一致させて撮影したモノクロの映画を観ているようだった。悲劇的でありながら静謐な描写に、スペイン内戦で人民戦線派であったアンヘルたちの逃亡の孤独が際立ち、張り詰めた気持ちで読んだ。ついに祖国出る決意をしたアンヘルには行く場所も帰る場所もない。「忘却、あるいは死への長い旅」へ出た彼は、自分と自分がかつていた場所との絶望的な隔たりに気づき、列車の中でただ呆然としているだけだ。苦しい描写が続いてきたためラストは僅かに光射すようにも感じられたが、状況が好転することはない。2021/01/05
miyu
60
生きるために逃げるのか、ただ死なないために逃げるのか。自分でさえもう、一体のために戦い、敗れ、逃げ隠れしているのか判らないのに。いつだって彼らは取り残され、忘れ去られるのだから。そして一人、また一人と仲間は去って逝き、アンヘルだけが残される。かつて確かその命を守るために戦ったはずの、親や妹や村人にさえ、それ以上に国にさえ見捨てられて。ただひとり、意味を問うことさえ許されず、彼は永遠に逃げ続ける。止まらずに逃げ続ける。いつか命が尽きるまで。本当に素晴らしかった。リャマサーレスの描くラストはいつも終わらない。2015/02/15
syaori
52
スペイン内戦。敗残兵となって山に逃げ込み、故郷の村を見つめて暮す男たちの10年。狼のように洞窟に身を潜め、治安維持部隊の追求や暴力にさらされる家族や人々を目の当たりにし、しかし死者のように為すすべもなく見ているしかない彼ら。生きるために略奪もし、殺人も犯し、時が経つにつれて孤独だけが募っていく。死者の太陽、月の淡い光に照らされ、淡々と詩情溢れる言葉で紡がれる彼らの世界、その静かに降るような言葉のなかに、怒りでもなく悲しみや諦めでもなく、言葉にならない思いが込められているようでかえって胸が詰まりました。2016/09/28