内容説明
19世紀初頭のフランスで、なぜ、ひとりの浮浪児が突然、「野生児」として脚光を浴び、今日にまで影響を与えたのか。自閉症や言語習得の臨界期という現代の問題の原点といえる「野生児」。その実像は、本や映画で世界に広まったものとはまったく異なっていた。人間科学の勃興、中央と地方、ナポレオンの皇帝即位…学問、社会、政治の交錯から浮かび上がる、「アヴェロンの野生児」の事実とは?
目次
序章
1章 アヴェロン県、ロデス中央学校
2章 パリ、国立聾唖学校
3章 イタールの教育と挫折
4章 舞台裏―人間観察家協会と内務大臣
5章 禁断の実験
終章
著者等紹介
鈴木光太郎[スズキコウタロウ]
東京大学大学院人文科学研究科博士課程中退。元新潟大学教授。専門は実験心理学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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かんやん
29
1800年南仏アヴェロンで保護された野生児(推定12歳)は、パリへ移され聾啞学校で教育を受ける。ある程度の成果は見られたが、遂に言語は獲得できず、思春期を迎えると手がつけられなくなり、(教育という名の)研究は断念される。彼は本当に野生児だったのか?啓蒙思想家による理想的な自然人(文明=悪という図式)という概念や、人類学揺籃期の学問的好奇心、認知学的興味が背景にあった。当時は自閉症という概念こそなかったが、知的障害という診断されたにもかかわらず、様々な思惑から自然児とされ、見世物とされたらしい。2020/08/10
くさてる
19
1800年に南フランスで見つかった身元不明で振る舞いも異様な少年。かれはただの浮浪児ではなく、野生児として扱われ、かれを教育しようとする人々の手にゆだねられるが……という実際にあった話を過去の資料から紐解いていくノンフィクション。この時代ならではの事情や偏見、人権意識の問題が複雑に絡み合って面白い。この実話をもとにトリュフォーが「野生の少年」を作ったのだけど、まさに事実は小説より奇なりというか、現実の無常さ、哀しみの後味が心に残りました。こどもの発達に興味がある人にもおすすめです。2020/10/28
Go Extreme
2
人間観察家協会 教育が断念された理由 野生児と他の子どもたちの差別 三人の内務大臣の関わり 自閉症や言語習得の臨界期 現代版のヴィクトール 森の中でドングリを採っていた少年 厳冬にも関わらず裸同然 ロデス中央学校教授の監督下 人間観察家協会の書記からの要求 聾唖学校長シカールへの受け入れ指示 真の野生児であり聾唖学校で教育 ナポレオン・ボナパルトの弟である内務大臣 少年到着後の調査委員会 体全体が傷跡だらけ 火の存在は常に心地よさ 誰にも愛着を持たず愛情を持っていなかった 言語習得の臨界期が近いことの示唆2025/05/15