出版社内容情報
◆果たして日本人は〈血縁〉を重視するのか、しないのか?
現在、家族・親子関係の形成の上で、「血縁」が重要な論点のひとつになっています。産んだ母が専業で子どもを育てるという「近代家族」の限界が指摘され、「家族を超える子育て」「血縁を超えて」というフレーズが盛んに喧伝される一方、不妊治療の拡大や養子縁組の停滞を根拠に、人々はますます「血縁」を重視するようになっているという指摘もあります。本書では、「日本人は血縁を重視する」という巷の議論、「血縁を重視しない」という社会学・人類学での議論を整理するとともに、当事者たちの声を多数紹介し「血縁」がどんな場面でどのような意味で使用されるのかというリアリティに迫ることで、これまでの議論を解きほぐします。日本の「血縁」をめぐる家族・親子像から、私たちのアイデンティティをも照射する、画期的な家族社会学の誕生です。
養子縁組の社会学 目次
はじめに―非血縁親子における〈血縁〉とは何か
古くて新しい問題
親子には血縁があるのが当たり前?―血縁に対する批判の噴出
「子どものため」の血縁?
本書の問いと対象
本書の学問的な意義
本書の構成
第一章 問いの設定―〈血縁〉の社会学的分析へ向けて
一 家族変動と親子―非血縁親子という指標
1 後期近代の親子関係―純粋な関係性への変化か/生物的本質への回帰か?
2 血縁への再注目と迷走する議論
二 迷走する議論の要因―血縁の浮上に関する社会学的説明とその限界
1 行為=意識という枠組みの限界
2 「主義」としての血縁の限界
3 パッケージ化された概念の限界
三 分析対象としての〈血縁〉―説明項から被説明項へ
1 文化人類学の視点の導入
2 実践される〈血縁〉
3 血縁から〈血縁〉へ
四 〈血縁〉の政治
1 社会的文脈
2 〈血縁〉と他の知・言説との関連
3 〈血縁〉を資源とする関係性と自己
五 本書の事例と用語説明
1 〈子どものための養子縁組〉
2 血縁/「血縁」/〈血縁〉
3 生みの親/育ての親、実親/養親、実子/「実子」
4 自己と「アイデンティティ」
第二章 養子縁組研究の批判的検討と本書の分析視点
一 養子縁組と血縁をめぐる課題
1 水準/指標/基準の混乱
2 行為と意識を等値する解釈図式
3 血縁の擬制の解釈
4 実親子関係の等閑視
二 養子縁組と「子どものため」をめぐる課題
1 血縁モデルから養育モデルへ?
2 客体=支援の対象としての養親子
三 本書の分析視点
1 〈血縁〉の運用
2 選好と制約
3 親の視点と子どもの視点
4 定位家族と生殖家族
第三章 対象と方法
一 制度
1 対象とする養子縁組の類型
2 使用する文書資料
二 当事者
1 親世代へのインタヴュー調査の概要
2 子世代へのインタヴュー調査の概要
第四章 特別養子縁組の立法過程における専門家言説とレトリック
一 立法の経路依存性
1 現行の条文
2 立法の背景と制約条件
二 主な論点と論争のレトリック
1 「子どものため」と戸籍の記載
2 「子どものため」と実親子関係の法的断絶
3 「子どものため」と離縁
4 「子どものため」と家庭環境
三 考察
1 二組の親か一組の親か
2 同化か異化か―「実子」の意味づけ直し
3 戸籍制度と「子どものため」の合致
第五章 特別養子縁組と隣接領域の影響関係と差異化
一 各選択肢間の関係性―重なり合う領域
1 養子縁組と里親制度
2 不妊治療と養子縁組・里親制度
3 子どものいない人生と不妊治療・特別養子縁組・里親制度
二 各選択肢の理念と運用上の条件
1 特別養子縁組
2 里親制度
3 不妊治療
三 考察―「子どものため」/親子関係/〈血縁〉の関連のバリエーション
1 法律にあらわれた親子観
2 運用にあらわれた親子観
3 各選択肢への水路
第六章 親世代の行為と意識?―養子縁組が選択/排除されるプロセス
一 事例の概要と本章の分析視点
1 調査の概要
2 事例の分布
3 分析の視点
二 分析?―「非血縁」と「全血縁」「無血縁」の比較
1 養子縁組を選択した事例
2 夫婦間の不妊治療・子どものいない人生を選択した事例
三 分析?―「非血縁」と「半血縁」の比較
1 養子縁組・里親を選択した事例
2 第三者の関わる不妊治療を選択した事例
四 分析?―「非血縁」内の比較
1 養子縁組を選択した事例
2 里親を選択した事例
五 考察
1 選択肢が変化するプロセスとその要因
2 選択の変化と意味づけ直し―遡及的解釈と動機の語彙
3 〈血縁〉の多様性と多層性―自己と関係性の構築
第七章 親世代の行為と意識?―親子関係の構築
一 事例の概要と本章の分析視点
1 調査の概要
2 事例の分布
3 分析の視点
二 分析?―親子関係の構築
1 親の葛藤?―親子関係の初期
2 親の葛藤?―告知の場面
三 分析?―子どもの「アイデンティティ」形成への関わり
1 生みの親と交流がない事例
2 生みの親と交流がある事例
四 分析?―他者への告知のマネジメント
1 他者への告知―時間的経過と選択的開示
2 子どもが行なう告知の方向付けと子どもの意向
五 考察
1 「子どものため」の専門家言説とそこに埋め込まれた〈血縁〉
2 生みの親に対するアンビバレンスとマネジメント
3 同化戦略・異化戦略と社会状況
第八章 子世代の行為と意識?―親子関係と「アイデンティティ」の構築
一 事例の概要と本章の分析視点
1 調査の概要
2 事例の分布
3 分析の視点
二 分析?―親子関係の構築
1 告知が青年期になされた事例
2 告知が学齢期になされた事例
三 分析?―「アイデンティティ」の構築
1 共通点―生みの親に対する関心
2 差異点―二つの規範への態度
3 共通点―人間関係への配慮
四 分析?―生みの親を呼称する新たなカテゴリーの創出
1 共通点―生みの親は「家族」「親」ではない
2 差異点―生みの親は「他人」か「DNAレヴェルの仲間」か
五 分析?―他者への告知のマネジメント
六 考察
1 血縁の内面化/相対化/マネジメント
2 親子関係と「アイデンティティ」の関連
3 「アイデンティティ」を通じた専門家言説の流入と新たな「病理化」?
第九章 子世代の行為と意識?―〈血縁〉の世代間再生産
一 事例の概要と本章の分析視点
1 調査の概要
2 事例の分布
3 分析の視点
二 分析?―定位家族に関する経験の再解釈
1 生殖家族を形成した事例
2 生殖家族を形成していない事例
三 分析?―生殖家族に関する展望
1 子どもを育てている事例
2 子どもを育てていない事例
四 考察
1 〈血縁〉の再生産のメカニズム
2 役割移行による意識の転換
第十章 考察―養子縁組における「子どものため」/親子関係/〈血縁〉の関連
一 法律における〈血縁〉と親子関係
1 既存の家族観・親子観の維持と新しい類型の創出
2 「実子」の意味の読み替え―差異か平等か
3 親子関係と「アイデンティティ」の分離と血縁の人格化
二 運用における〈血縁〉と親子関係
1 批判的検証なき専門家言説の流入と流通
2 規範化するオルタナティヴ
3 差異化と正当化の循環
三 親世代の行為と意識
1 子どもがほしい≠親になりたい≠血縁へのこだわり
2 ケアのための〈血縁〉
3 「子どものため」による葛藤
四 子世代の行為と意識
1 社会規範の内面化と相対化
2 「アイデンティティ」言説による強迫
3 新たなカテゴリーの創出と純粋な関係の反転
第十一章 結論―本書の理論的示唆
一 一元的変化から多元的変化へ
1 諸領域における〈血縁〉の偏在、規範の組み換え、新しい意味の誕生
2 当事者による〈血縁〉の運用―役割、ライフコース、場面
二 〈血縁〉の家族社会学へ
1 ケア
2 「アイデンティティ」
三 本書の意義―本書が構築した分析枠組みの応用可能性
1 二分法を超えて
2「子どものため」と血縁の交錯
四 今後の課題と展望
注
あとがき
引用文献
事項索引
人名索引
装幀―小野寺健介(odder or mate)
カバー写真/高橋直樹
野辺 陽子[ノベ ヨウコ]
著・文・その他
内容説明
いま、「非血縁親子」になにが起きているのか?「日本人は血縁を重視する」という巷の議論と、「重視しない」という社会学・人類学での議論との二項対立がもたらす混乱を、先行研究、制度分析を通して徹底的に整理するとともに、不妊当事者、養親、養子など、50人を超えるひとびとの声を多数紹介し、「血縁」が現実の場面でどのように使用されるのか、そのリアリティに迫る。「血縁」をめぐる家族・親子像からみる、新しい時代の家族社会学の誕生。
目次
第1章 問いの設定―“血縁”の社会学的分析へ向けて
第2章 養子縁組研究の批判的検討と本書の分析視点
第3章 対象と方法
第4章 特別養子縁組の立法過程における専門家言説とレトリック
第5章 特別養子縁組と隣接領域の影響関係と差異化
第6章 親世代の行為と意識1―養子縁組が選択/排除されるプロセス
第7章 親世代の行為と意識2―親子関係の構築
第8章 子世代の行為と意識1―親子関係と「アイデンティティ」の構築
第9章 子世代の行為と意識2―“血縁”の世代間再生産
第10章 考察―養子縁組における「子どものため」/親子関係/“血縁”の関連
第11章 結論―本書の理論的示唆
著者等紹介
野辺陽子[ノベヨウコ]
1970年、千葉県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科社会学専門分野博士課程単位取得退学。博士(社会学)。専門:家族社会学、アイデンティティ論、マイノリティ研究。高知県立大学地域教育研究センター講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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スイ
うさぎさん
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- 和書
- おめでとう