出版社内容情報
当然ながら、日本の近代作家が事実に基づいた小説やモデル小説を書けば、周囲の人間にはそれが分かる。だが西洋の小説については、日本の読者はすぐには分からない。単にそれだけのことで、多くの批評家が、日本にはダメな私小説やモデル小説があって、西洋では想像力から生み出された本格小説があると思い込んでいたのではないか。(「リアリズムの擁護」より)
内容説明
いまや文学衰退の元凶のように言われる私小説、自然主義。この文学史的偏見を糺し、リアリズムを評価しなおす、まっとうな批評精神に貫かれた挑発的論集。
目次
リアリズムの擁護―私小説・モデル小説
大岡昇平幻想
司馬遼太郎における女性像
恋愛と論理なき国語教育
岡田美知代と花袋「蒲団」について
偉大なる通俗作家としての乱歩―そのエロティシズムの構造
落語はなぜ凄いのか
ペニスなき身体との交歓―川上弘美『神様』
『卍』のネタ本―谷崎潤一郎補遺1
石田三成と谷崎潤一郎―谷崎潤一郎補遺2
藝術家不遇伝説
鶴田欣也先生のこと
著者等紹介
小谷野敦[コヤノアツシ]
1962年、茨城県に生まれる。1987年、東京大学文学部英文科卒業。1997年、同大学院比較文学比較文化博士課程修了。学術博士(超域文化科学)。1990~92年、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学に留学。1994年より大阪大学言語文化部講師・助教授を経て、現在、東京大学非常勤講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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蔦屋重三郎そっくりおじさん・寺
42
大岡昇平論、司馬遼太郎論、国語教育論、江戸川乱歩論、落語論、石田三成と谷崎についての部分だけ再読。面白い。再読なのに夢中で読んだ。私の関心の対象と被っているからだろうが、小谷野さんの評論集の中でも最も面白いものではなかろうか。大岡昇平vs海音寺潮五郎の話(海音寺の勝ちと言って良い)なんて痛快。そして乱歩を読みたくなった。2012/06/09
袖崎いたる
8
柄谷行人の『日本近代文学の起源』以降、田山花袋と自然主義と私小説がいっしょにまとめられるようになったというのはよく発見したなぁと感心。2018/04/14