出版社内容情報
一九九五年の阪神淡路大震災および地下鉄サリン事件以来、注目されるようになった「トラウマ」が、今では深刻化する凶悪犯罪、児童虐待、ドメスティック・バイオレンスを語るときに欠かせないキーワードとなっています。本書ではこの問題を、臨床心理学や精神医学に留まらず、哲学・文学・芸術といった領域にまで広げて議論を展開しています。―「人間の尊厳」を守るためには一体どのような視点が必要で、どのような実践が求められるのでしょうか?
第一部に「表象」を扱う論文を集めている。遊び、夢、イメージ、映像、写真と、形態や媒体こそ違え、いずれの論文も常に記憶の表象であるとともに、記憶を隠蔽している。ここにトラウマ表象のパラドックスがある。つまり、私たちはトラウマそのものを直接見ることはできないのであって、何らかの表象の形でそれと出会うしかない。
第二部に集められているのは、トラウマをいっそう理論的に扱う論考である。「主体」の成立とトラウマの関係がそれぞれ異なった観点から論じられる。主体を圧倒し、通常の対処の限界を超えるところにトラウマがあるのだから、トラウマが主体という存在を脅かすことは言うまでもない。どれだけトラウマを消化する試みがなされたとしても、それはトラウマに由来するものの一部がトラウマ的でなくなるというにすぎず、トラウマが主体を脅かすものとして主体の外にあるという構造は変わらない。トラウマとの出会い、あるいは出会えないことが、主体のあり方を根本的に決定していることも。そこは、主体ということばでは表現できないあり方へとつながる通路である。そして議論は自ずと他者の問題にも導かれるはずである。(編者あとがきより)
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【関連書籍】
『 心理臨床の創造力 』 岡昌之著 (定価2520円 2007)
『 嘘を生きる人 妄想を生きる人 』 武野俊弥著 (定価2310円 2005)
『 カウンセリング大事典 』 小林司編 (定価9975円 2004)
【新 刊】
『 レクチャー 精神科診断学 』 京都府臨床心理士会編 (定価2940円 9月刊行予定)
目次
第1部 トラウマの記憶と表象(外傷性記憶とその治療―一つの方針;トラウマの記憶とプレイセラピー;映画における記憶とトラウマの表象;トラウマと夢―トラウマ多き境界性人格障害のOがこの世に定位することの難しさ;表象の“トラウマ”―天皇/マッカーサー会見写真の図像学)
第2部 トラウマの主体と他者(トラウマという場所―我々は現実界との出会いを希求しているのだろうか?;物語とトラウマ;他者のトラウマ、他者の言語;トラウマによる主体の損傷と生成)
著者等紹介
森茂起[モリシゲユキ]
1955年生まれ。京都大学教育学部大学院博士課程修了。博士(教育学)。甲南大学文学部人間科学科教授。専門は臨床心理学
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