出版社内容情報
三点確保。このタイトルをいぶかしく思われる方は多いのではないかと思う。その直接の由来は、本書第二部の冒頭に記したとおりで、野口武彦『日本思想史入門』(ちくまライブラリー)に収められている「ドイツ・ロマン派と国学」という文章からの借用であり、用語自体はロック・クライミングにおいて守るべき本的な原則を意味する。しかし、このタイトルのもとにわたしが目指したものは、ロマン主義の検討を共通項としつつも、野口氏のものとはちがっている。つまり、彼のように国学とドイツ・ロマン派との「同時代現象」としての共通性を、もうひとつの同時代現象としてのフランスと対比し、差異化させることで浮き彫りにしようとすることではない。むしろ逆に、ロマン主義を「典型的にドイツ的な現象」と考えたり、「物のあわれ」論を機軸に宣長から日本浪漫派につながっていくような傾向を、たとえ無意識にせよ、なにか「日本的な心性」と関連づけようとすることを、三点目の効果によって徹底的に排除すること、いいかえれば、ロマン主義の問題を国民性や民族性、あるいは文化的異質性(たとえそれがドイツと日本にともに通じる異質性として考えられていたとしても)といった、まさにロマン主義によってその意味を与えられているような概念から切り離し、ある「普遍的現象」(ただし超時代的現象ではない)としてとらえるための視角を構築することであった。(本文より)
内容説明
国家という芸術(美学)作品の緻密な分析。ドイツ・ロマン派と国学を、フランス象徴主義(マラルメ、ヴァレリー)という意想外の第三項と対照させることで、近代に固有の現象としてのロマン主義の本質を浮き彫りにし、ナショナリズム論、ファシズム論に新鮮な視角をひらく。
目次
「精神の政治学」とは何か―ポール・ヴァレリーとヨーロッパ
ヨーロッパ精神と日本精神―「虚ろな合唱」をめぐる覚書
岬、資本、囚われのものCap、Capital、Captif―危機の言説について
三点確保―ロマン主義の理解と批判のために
国民語りNa(rra)tion―フィヒテからルナンへ
群衆、あるいは刻印としての政治
襞、エクリチュールとしてのpli、repli、pliage
抵抗の線―ヴァレリーとフランス精神分析
補論 言語モデル・無意識・文化―解釈はもうひとつの妄想か?
著者等紹介
山田広昭[ヤマダヒロアキ]
1956年大阪府生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程中退。パリ第8大学第三期博士(フランスおよび比較文学)。学位論文『意味と無意識―ポール・ヴァレリーと精神分析』。現在、東京大学大学院総合文化研究科助教授(言語情報科学専攻)
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無重力蜜柑
hsm