出版社内容情報
日本文学の古典というと『日本書紀』『古事記』『万葉集』『源氏物語』『平家物語』『奥の細道』などがすぐ思い浮かびますが、これらの作品はいつどのようにして古典=カノンとなったのでしょう。本書は、教科書やカリキュラムなどの変遷を歴史的にたどりながら、これらの作品が古典になったのはほとんど近代以降、国民国家の形成と連動してであることを詳細に跡づけます。国民国家の形成には、国民歌集、文学史、国語が必要であり、むしろこれらが国民そして国家をつくったというわけです。柄谷行人、神野志隆光、村井紀、堀切実などの諸氏を含む、日米の研究者によるスリリングな論集です。
近代におけるカノン化の結果は、ある種の文化ナショナリズムに見られるような、多彩な地方の民俗文化の複合体に対する規範的な高次文化の押しつけにとどまるものではなかった。むしろ、中世の和学や江戸期の国学の核心にあった(天皇を中心とする)貴族文化と、明治の国文学者や民俗学者によって初めてカノン化され、さらに戦後になって拡張された(とくに中世・江戸期の説話や町人文学など)民衆文学との混合が、その結果として生じたのである。要するに近代の文学カノンのかなりの部分は、「国民」の概念、とりわけ、国民統合の上に立つ天皇という高次の権威の中心を基盤とする政治的ナショナリズムを通じて形成されたが、その一方でカノンの別の側面は、少なくともかなりの部分が「民俗」の概念にもとづいており、十八・十九世紀ロマン主義の、ヘルダー的な、太古からの国民精神を体現すると考えられた民俗ないし民衆の概念と共通点の多い、民衆的なナショナリズムによって動かされていた。(「総説 創造された古典」より)
書 評
「こころのふるさとの神話を打ち破る」(1999年 6月 6日付 毎日新聞、張競氏評)
四国新聞 99.6.7 イ・ヨンスク氏評 同記事/日本海、北日本、高知、福井、愛媛、沖縄タイムス、下野、中国、北國、長崎
「近代日本の“正典”形成過程を分析」(日本経済新聞 99.6.20 石原千秋氏評)
「出版ニュース」99.7.上
「週刊新潮」99.6.17
朝日新聞 99.8.1 「語る現在、語られる過去」の書評の中で」吉見俊哉氏評
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【関連書籍】
『 書物の日米関係 』 和田敦彦著 (定価4935円 2007)
『 万葉集の発明 』 品田悦一著 (定価3360円 2000)
『 死産される日本語・日本人 』 酒井直樹著 (2940円 1996)
内容説明
『古事記』『万葉集』『源氏物語』などが日本の古典になったのは、明治以降たかだか百年余りのことにすぎない。近代国家と国民の創成という政治的必要に迫られて歴史的に形成されたのである。古典がすぐれて政治的な言説闘争の産物であることを多面的かつ根底的に解き明かしたスリリングな論集。
目次
第1部 近代国民国家と文学ジャンルの構築(国民歌集としての『万葉集』;ジャンル・ジェンダー・文学史記述―「女流日記文学」の構築を中心に ほか)
第2部 文学・口承・起源の物語(「日本神話」の来歴―「古典」としての『古事記』『日本書紀』の歴史と現在;漢学―その書記・生成・権威 ほか)
第3部 美学・ナショナリズム・伝統の構築(美術館としての歴史―岡倉天心とフェノロサ;「みやび」とジェンダー―近代における『伊勢物語』 ほか)
第4部 教育制度とカノン(カリキュラムの歴史的変遷と競合するカノン)
感想・レビュー
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