出版社内容情報
《内容》 序 文 膵癌の発生頻度は近年増加の傾向がみられ,死亡率も上昇している.治療成績も,胃癌,大腸癌などの消化管の癌に比較して,胆道癌と同様,予後がきわめて不良である.如何にして,膵癌の治療成績を向上させるか,切実に求められているのが現状である.発見された時点で,すでに進行癌であること,膵ではリンパ系が豊富に発達していること,周囲組織,特に膵後面では被膜がないために容易に後面に接する組織への浸潤が起こることなどが,予後を不良にしている主要な因子となっている. 治療成績を向上させるためには,現時点では,早期発見,早期治療が唯一の方法と考えられている.近年,超音波診断を中心とした画像診断の進歩は著しく,特に膵疾患領域における診断の進歩には目をみはるものがある.大きさが5mm以下の小膵癌も発見されるようになってきた.治療に関しては,消化管分野などでは,手術療法に代わって,内視鏡下手術が,早期癌の症例では,採用されるようになってきたが,膵癌に関しては,いまだ手術療法が中心となっており,進行癌に関してのみ,姑息的な療法が採用されている.手術術式に関しては,早期の癌が発見されるようになり,また,併用療法の工夫発達により術式自体も変遷がみられ,拡大から縮小まで,病例によって,QOLを考えた術式が採用されるようになってきており,かつて考えられたような膵癌に関しては,一率に拡大根治術を目指すというようなことはなくなってきている.化学療法と放射線療法,手術療法の組み合わせなど,治療法の選択肢が多くなっており,適切な治療法を選択するには,十分な知識が要求される. 今回,消化器系癌のなかでは,最も予後が不良とされている疾患の一つである膵癌の治療成績の向上を目指して,本書を企画した.特に早期発見は,治療成績の向上には,欠くことのできない必須条件であり,早期発見の診断のコツを会得することが望まれる.本企画では,最重要項目として取り扱うこととした. 膵癌取扱い規約に関する知識の再整理と本邦における疫学の正しい理解は基本事項として必要なことである.病理に関しては膵管癌,粘液産生膵癌をはじめ,悪性,良性の鑑別が困難な症例での病理診断のポイントを十分に理解する必要がある.また遺伝子異常に関しても,最近の知見を紹介することとした. 診断に関しては,画像検査が中心となって行われているのが現状であり,現時点では,最も正確な情報を提供してくれる.最新のEUS,MRCPなどの知識をも含め,また膵管鏡,膵生検をも含めて解説をしていただいた.境界領域と考えられる良・悪性の鑑別が困難とされている嚢胞性疾患に関しては,別項をもうけて知識を整理した. 手術療法としては,癌の発生部位,進行程度,患者の状況などの条件により,拡大から縮小まで,種々な術式が工夫されている.各種術式の適応と選択を十分理解することは,きわめて大切である.QOLをも含めた長期予後と転帰を明確にしたつもりである.成績向上のためには手術療法のみでは不十分で,術中照射をも含めた放射線療法などの合併療法も常に考慮しなければならない.しばしば遭遇する切除不能な症例に対する対策も重要である.特に末期症例でのQOLを考えた対策は大切である.遠隔成績を左右する因子,手術後の転帰を十分理解することにより,的確な膵癌治療の方針が得られればと考える. 以上,第一人者の専門家にご依頼して,膵癌に関する最新の知見をまとめてみた.本書を十分に活用していただいて,明日への膵癌治療に役立たせていただければ幸いであり,必ずや役立つものと考えている次第である. 1998年12月責任編集者 二川俊二順天堂大学医学部第二外科学教授 《目次》 目 次 1.膵癌取扱い規約(第4版)の要点と問題点 三重大学第一外科 川原田嘉文・他 1膵癌取扱い規約改訂の歴史 1膵癌取扱い規約第4版の要点 1本邦規約とUICC分類との比較 2新分類案 6 2.膵癌の疫学 神戸大学災害・救急医学 中山 伸一・他 9頻度 9死亡数,死亡率,罹患率の変遷 10リスクファクター(危険因子) 10組織学的頻度,治療成績 12 3.膵癌の病理 15病理学的観点 … 順天堂大学病理学第一 山崎 滋孝・他……15嚢胞腫瘍と膵管内腫瘍 15膵管内乳頭腫瘍と浸潤性膵管癌 16遺伝子異常 … 国立がんセンター中央病院臨床検査部 菅野 康吉……20膵癌の遺伝子異常 20膵癌の遺伝的易罹患性 22 4.画像診断 25総論 総論 … 順天堂大学消化器内科 有山 襄……25超音波(US) 25超音波内視鏡(EUS) 25腔内超音波(IDUS) 25CT 26MRI 26MR cholangiopancreatography(MRCP) 26内視鏡的膵胆管造影(ERCP) 26各論超音波 … 名古屋大学第二内科 小島 伸哉・他……28超音波検査の概要 28各種膵疾患の超音波像 31新しい超音波検査 40CT・MR … 国立がんセンター東病院放射線科 村上 康二・他……47CT 47MRI 54ERCP,MRCP,血管造影 … 順天堂大学消化器内科 窪川 良廣・他……60対象 60方法 60ERCP 60MRCP 62ERCPとMRCP 62血管造影 63症例 65考察 70膵管鏡・膵生検 … 手稲渓仁会病院消化器病センター 真口 宏介・他……71膵生検・細胞診のアプローチルート 71内視鏡的膵生検(EPB)の臨床成績 74膵管鏡 76 5.膵癌と腫瘍マーカー 金沢大学がん研究所内科 渡辺 弘之・他 79膵癌の腫瘍マーカーの分類 79主な腫瘍マーカーの陽性率と偽陽性率 79膵癌の早期診断における血清腫瘍マーカーの有用性 81膵液中癌関連遺伝子の腫瘍マーカーとしての有用性 82 6.膵m胞性疾患と癌 東京女子医科大学消化器外科 今泉 俊秀・他 85自験例の概要 85嚢胞形態と手術適応 85組織学的進展 86遠隔成績 87治療方針 87 7.手術療法 89総論ーわが国における手術療法の変遷,現況,将来ー … 帝京大学第一外科 高田 忠敬……89膵癌切除の創世記 89膵癌に対する拡大手術 89リンパ節転移と神経浸潤:拡大郭清の目安としてのリンパ節群分け 89臓器温存膵切除術 90膵癌手術の将来 91各論標準的膵頭十二指腸切除術 … 京都大学腫瘍外科 今村 正之……93術式 93再建法 95拡大膵頭十二指腸切除術式 … 金沢大学保健学科 永川 宅和・他……97膵頭部癌治療の基本方針 97広範囲拡大郭清膵頭十二指腸切除術の手技 97合併症とその対策 100拡大膵頭十二指腸切除術の成績ならびに問題点 101幽門輪温存膵頭十二指腸切除術 … 横浜市立大学第二外科 簾田康一郎・他……103適応 103術式の要点 103術後合併症 106手術成績 106全十二指腸・胆道温存膵頭切除術 … 北海道大学第二外科 安保 義恭・他……109本術式の適応 109手術手技の実際とポイント 109術後管理 112膵頭区域切除術 … 名古屋大学第一外科 神谷 順一・他……113膵頭上部切除の実際 113考察 116膵分節切除術 … 福岡大学第一外科 池田 靖洋……118適応 118術式選択上の注意点 118膵分節切除・尾側膵空腸吻合術の手技 119術後管理と術後合併症 123 8.化学療法 国立がんセンター中央病院内科 岡田 周市 125対象 125抗癌剤の種類と投与方法 125効果判定法 125治療成績 126 9.膵癌に対する放射線治療 国立がんセンター東病院外科 竜 崇正・他 129対象および方法 129結果 129考察 131 10.膵癌の集学的治療 東北大学第一外科 渋谷 和彦・他 135教室例の概要 135膵頭部癌の手術成績 135膵体尾部癌の手術成績 136術中照射療法の効果 136膵癌と肝転移 137経門脈投与によるLAK養子免疫療法と化学療法 138 11.切除不能例の治療 山口大学第一内科 近藤 哲・他 141自験例の概要 141症例呈示 141成績 142考察 143 12.遠隔成績ー成績に影響する諸因子ー 久留米大学外科 今山 裕康・他 145自験例の概要 145膵管癌の予後に影響する因子 148まとめ 149 13.手術後の転帰 国立がんセンター中央病院外科 小菅 智男・他 151予後不良の要因 151切除症例の予後 152治療成績向上の可能性 154随 想 … 三重大学名誉教授/松阪市民病院長 水本 龍二……155和文索引 157欧文索引 160広告一覧 164
目次
1 疫学
2 基礎
3 病理
4 早期診断のストラテジー
5 治療のストラテジー
6 発生予防のストラテジー