内容説明
選挙は、四年に一度、待ちに待ったムラ祭りの様相を呈する。たとえば、「カネと中傷が飛び交い、建設業者がフル稼働して票をたたき出すことで知られる甲州選挙」(朝日新聞07・1・29)。その選挙をささえる親分子分慣行、同族や無尽などの民俗組織、義理や贈与の習俗―それらは消えゆく、その地の遺制にすぎないのか。選挙に生命を吹き込み、利用されつつも、主張する、したたかで哀切な「民俗」の側に立って、わが政治風土の基層に光を当てる。
目次
第1章 ムラ祭りとしての選挙(神迎え;神の降臨;神祭りのあと)
第2章 ムラの選挙装置と民俗(イッケとジルイ;親分子分慣行;無尽と仁義)
第3章 ムラの精神風土と金丸信(甲州の政治風土;ムラの政治家)
終章 政治風土と民俗のゆくえ
著者等紹介
杉本仁[スギモトジン]
1947年山梨県に生まれる。青山学院大学を経て、同大学院修士課程修了。現在公立高等学校教諭・柳田国男研究会会員。山梨県都留市在住(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Toska
8
祭りとしての選挙、生け贄、無尽を利用した集票、市民の葬式に出まくって選挙では無敗を誇った市長、怪文書、果ては敗者の村八分…およそ近代国家とは思われない事例の数々で、眺めているだけで楽しい。ただ、これらを一地方の陋習と切り捨てることができるかどうか。ムラ的な共同体による規制、「義理人情」と密接に絡み合った汚職、親分子分的な人間関係など、「甲州選挙」は日本の政治文化をかなりの程度まで反映しているのではないか。2022/09/30
とりもり
5
選挙が一種の祭りとして機能していたという指摘は興味深い。ここでの指摘が甲州特有のものなのかどうかは不明だが、甲州が特に選挙でお金をバラ撒く土地柄なのは間違いないのだろう。その伝統を色濃く受け継いだ「最後の日本的政治家」が金丸信だとすれば、その背景が何となく理解できる気もする。何でも贈収賄として禁止される現代的選挙と、ここには明らかに異なる前近代的な政治家のスタイルが活写されている。面白い論考だが、普遍性はないかな。★★★☆☆2015/05/30
tnk
1
甲州選挙の背景を民俗から論じる名著。政治家は集票のために民俗を利用し、有権者も外来の制度を民俗の枠組みに吸収することで、政治参加を図る。論考の原案は自治体史の原稿として提出したもので、当然ながら掲載を断られたとのこと。2022/07/02
shrzr
1
”最後の日本的政治家”金丸信を通して日本的選挙をきれいごと抜きに描き出す、非常に面白い本。自治体史への掲載を断られたというのも頷ける。カネが乱れ飛ぶ選挙戦は今とはずいぶん様相が異なるのだろうが、とはいえ民は政治に民意を反映するために日本的な共同体に頼らざるを得ないのであり、今でも選挙は少なからず民俗的なものだろう。2021/01/11
ポンポコ
0
選挙を通して、村の構造や山梨県の民俗を解き明かしていく内容。テーマがテーマだけに生臭い話も出てくるけど、同時に村落共同体の成り立ちを考えるという点でもおもしろい。組織選挙や利益誘導が悪のような報道がなされるけど、それは都市視点の一面的な見方にすぎなくて、金じゃなくて義理人情の世界、共同体と密接に結びついているからこそ民意を汲みとることができていた日本的政治の姿を再評価してもいい時期だと感じた。落選した民主党議員はこれ読んで勉強したほうがいい(笑)2013/01/14