内容説明
格差・貧困への人々の怒りが右傾化を生むのか?反EU、反移民、反イスラム…というヨーロッパに広がる負の感情の源泉は何か。一般的な調査からは見えてこない人々の本音をさぐる。
目次
第1章 ヨーロッパの排外的ナショナリズムをデータで見る
第2章 誰が排外的な政党を支持するのか
第3章 誰が文化的観点から移民を忌避するのか
第4章 欧州各国の違いを分析する―3パターンの排外的ナショナリズム
第5章 右翼支持者が好む反移民という建前―フランス国民戦線支持者のサーベイ実験
第6章 ナショナリストが煽る市民の排外感情―ラトビア選挙戦の効果検証
第7章 主流政党による排外主義の取り込み―ポーランドの右傾化と反EU言説
第8章 非経済的信念と排外主義
著者等紹介
中井遼[ナカイリョウ]
北九州市立大学法学部政策科学科准教授、博士(政治学)。日本学術振興会特別研究員、早稲田大学助手、立教大学助教等を経て2016年より現職(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ぽん教授(非実在系)
5
「経済的弱者は排外主義とは相関せず、文化を破壊される恐れこそ排外主義が相関する」を証明するためにフランス、ラトビア、ポーランドを事例に統計分析したというもの。統計的手法それ自体は参考になるのだが、排外主義に対する考え方が結構表面的に見えてしまう。2021/12/17
ikeikeikea
5
タイトル通りなのだが、驚きに満ち溢れた1冊。この著作は我々の願望や思い込みをデータを用いて、露わにしていく。我々は「社会経済的に高い地位や能力 を持って国外移住を行えば、そのような憎悪や迫害とは無縁のコミュニティに属することができるだろう」といったような楽観視をしていなかったか?本書はそれを根本から否定する。排外主義は貧困層の独占物では一切ないのだ。コレはコロナ禍でもあらわになっているように思う。外国人を感染源として排除したがったのはいわゆるリベラル派が多かったような気がする。2021/05/05
kuroma831
4
今年のサントリー学芸賞受賞作。かなり良かった。ヨーロッパにおける排外主義がどのような社会階層、世論、個人の意識によって規定されているのかを統計調査の再回帰分析等、実証分析によって明らかにする。「グローバル化の中で取り残された経済的弱者が排外主義に傾倒する」という定説は思い込みでしかなく、排外主義は個人の経済的貧困とは大きな相関はなく、経済的に安定している者も含めた広範な層から「自分達の文化を毀損する恐れのある移民」への反感として現れる。2021/12/04
obanyan
4
この本の主張を一言でまとめると「経済的な弱者が置き去りにされた怒りから右翼政党を支持する、というポピュラーな言説は実証的に支持されない」となるだろう。その代わりに、もっと文化的な要素(反EUかどうか、「移民は文化を侵食する」という認識を有しているかどうか)の方が右翼政党支持に影響を与えているということを定量的に示す。本書後半はフランス、ポーランド、ラトビアといった個別の国の歴史的経緯や制度論を踏まえた分析になっていて、よりち密になっているなあという印象を受けた。2021/11/07
たろーたん
3
なぜ排外主義が起こるのか。よく「移民によって経済が壊されるから」と言われるが、著者のデータによると、右翼政党支持率と地域別失業率は必ずしも相関していないと言う。むしろ、排外主義の原因は政治的な争点が、経済や分配をめぐる問題から、共同体の在り方を巡る問題へシフトしたためだと著者は言う。つまり、「経済が悪い→移民攻撃」ではなくて「移民は問題なのではないか」という問題提起・政治論争の焦点がそこに移ったから、排外主義が起こったという訳である。(続)2024/12/19