出版社内容情報
文豪ゲーテがいち早くその価値に気づいて支援を惜しまなかった蝋製医学模型標本「ムラージュ」。刻々と変化する皮膚疾患や珍しい症例を患部から石膏で直接かたどって作った現物大の蝋型にリアルな植毛や彩色を施した三次元のムラージュは、近代医学で重要な役割を果たした。
日本では皮膚科学者・土肥慶蔵と同郷の画家・伊藤有を起点として「ムラージュ師」の系譜が形成された。しかし、管理の難しさと写真技術の発展につれて和製ムラージュは大量廃棄され、現存するものにも修復の見込みはない。
博物館や教室の奥で忘れられていたムラージュに光をあて、その歴史を丹念に調査した研究の集大成。職人たちの人生はもちろん、ユーモラスな寄生虫や愛らしいキノコも織り込んだ第一級史料。蝋という素材ならではの魅力と迫力をフルカラー写真で紹介する。
目次
第1章 元祖皮膚科コンビ、土肥慶蔵と伊藤有―東京大学医学部皮膚科学教室・本郷
第2章 私学のムラージュ―慶應義塾大学医学部皮膚科学教室・信濃町
第3章 ムラージュ展示室と植物標本―北海道大学総合博物館・札幌
第4章 北陸伝播―金沢大学医学記念館
第5章 PILZE(ピルツェ)水虫またはキノコ―北海道大学植物園、東京大学医学図書館ほか
第6章 南へ 九州での挑戦―九州大学医学部皮膚科学教室
第7章 ムラージュの灯、消える 失われた日本の技術―名古屋大学博物館
第8章 異端の蝋模型師 沼田仁吉―北里研究所・東京大学医科学研究所・目黒寄生虫館
第9章 ムラージュの未来―ドレスデン・ドイツ衛生博物館
エピローグ ドレスデンの空の下で
著者等紹介
石原あえか[イシハラアエカ]
東京大学大学院総合文化研究科教授。ドイツ・ケルン大学哲学博士(Ph.D./Dr.phil.)。ドイツ文学、特に「ゲーテと近代自然科学」を研究テーマとする。2012年以降、科研費を得て日本国内に現存する皮膚科ムラージュの記録・調査を開始。15年から医学専門誌『西日本皮膚科』の綜説連載で、その研究成果を一部公表。受賞歴:ドイツ学術交流会(DAAD)よりJacob‐und Wilhelm‐Grimm‐F¨orderpreis(グリム兄弟奨励賞)、日本学術振興会賞、日本学士院学術奨励賞、日本独文学会賞、『科学する詩人ゲーテ』(慶應義塾大学出版会、2010年)によりサントリー学芸賞、ドイツ連邦政府よりPhilipp Franz von Siebold‐Preis(シーボルト賞)
大西成明[オオニシナルアキ]
1952年、奈良県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。写真家。東京造形大学造形学部教授。「生命」や「身体」をテーマに、「生老病死」の姿をドキュメントした写真を撮り続けている。写真集『象の耳』(日本写真協会新人賞)、雑誌連載『病院の時代―バラッド・オブ・ホスピタル』(講談社出版文化賞)、『地球生物会議ポスター』(ニューヨークADC賞ゴールドメダル)、写真集『ロマンティック・リハビリテーション』(林忠彦賞・早稲田ジャーナリズム大賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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yuri9976
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