感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
pirokichi
26
『この父ありて』(梯久美子)で著者の生涯を知りそういえば詩集持ってたなあと手にとった。著者(1920-2004)は高等小学校を卒業後、14歳で丸の内にある銀行に事務見習として就職。戦後は窮乏した家族のために定年まで働いた。生涯独身。血縁を生きるとは何か、家とは、家族とは、を生涯問い続けた。残酷で怖い詩が多いが、真実をまっすぐに見つめようとする眼差しが感じられる。同録の「詩論、自伝にかえて」もいい。「私のふるさとは、戦争の道具になったり、利権の対象になる土地ではなく、日本の言葉だと、はっきり言うつもりです」2023/01/03
ナハチガル
6
ドキッとしたり、ゾワッとしたり、ヒヤッとしたりして、ウーム……となる。失語症みたいになってしまうけれど、そういう凄みや、不意の一撃を秘めた詩がいくつ収められている。でもそれは、誰もがどこかで感じていたり、違和感を持っていたりしていたことを、「これでしょ」って突き付けられているからなのだ。詩は虹を書くことではない、と彼女は言う。「虹を指し示している指、それがどうやら詩であるらしい」。自分の詩集を「綴り方のような詩です」と言う、その謙虚なようで自負と野心に満ちた一言が、実に頼もしい。裏表紙の笑顔も凄い。A+。2015/07/12
misui
5
生活の中で酷薄なまでに研ぎ澄まされた「目」が、時に人間の営みの芯を貫く。その片鱗は第一詩集に見えていて、会議室に居並ぶ人々を「いつかみんないなくなる顔」「からっぽのがいこつ」と眺めたり(「顔」)、「ゆけばゆくほど一人になる/空のまっただ中を/風船は昇ってゆく。」と自己が他から離れていく様を描く。第二詩集においては「(ひょっとすると人間は、どこかの寓話の川のほとりに、/住んでいるかもしれないな)」(「カッパ天国」)と見なすまでになり、傑作「シジミ」「母の顔」「童謡」に結実する。見つめる視線が恐ろしい。2014/04/08
有沢翔治@文芸同人誌配布中
4
石垣りんの詩は生活に密着している。高等小学校を卒業後、銀行に就職。その後、定年まで一家を支え続けた。戦争、四日市喘息などの公害問題、そして家庭の問題……。詩で欺瞞を鋭くえぐり、白日のもとにさらけ出している。生活に根ざしたリアリズムと悲哀をユーモラスに表現。 https://shoji-arisawa.blog.jp/archives/51526502.html2022/10/08
がろん
3
石垣りんといえば当時では珍しく銀行勤めをし、家庭を持ちながら詩作をつづけた人。高らかに詠う詩には彼女の強さが投影される。そう思っていた。けど、読んでみたらちがった。石垣りんの強さは自立し、生活の中で詠いつづけたからではなく、自分の弱さに目を背けないところにあった。弱さを詠える強さ。大事な強さだろう。2014/10/09