内容説明
漱石の写真はなぜ、右向きなのか。感染症の時代の漱石は、天然痘によるアバタを持つ。その劣等感を抱きながら、日本の近代化と向き合った。漱石の葛藤と時代感が色濃く影を落とす作品の特質をコロナ禍の下、改めて読み解き、考える。
目次
第1章 『吾輩は猫である』『道草』(肖像写真にこだわった夏目漱石;『道草』の主人公健三に見る暗い記憶 ほか)
第2章 『三四郎』(鉄道史に見る『三四郎』の歴史的背景;「汽車の女」の「あなたはよっぽど度胸のない方ですね」の一言 ほか)
第3章 『それから』(「それから」という奇妙な題名;代助が「三千代さん」と呼ぶ訳 ほか)
第4章 『門』(胡坐をかけず、胎児にこだわる宗助;伊藤博文暗殺事件をめぐる兄と弟、そして兄の妻との会話 ほか)
著者等紹介
小森陽一[コモリヨウイチ]
東京大学名誉教授、日本近代文学、夏目漱石研究者、「九条の会」事務局長。著書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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このみ
6
「感染症の国内での流行と、日清戦争(1894〜1895)と日露戦争(1904〜1905)という、海外での戦争遂行と兵士の感染、その帰還による感染の日本国内での広がりを、正確に自らの小説の中でとらえていた」。「吾輩は猫である」の苦沙弥先生と「道草」の健三の頬の痘痕(アバタ)。「三四郎」に登場する青山病院。「それから」で三千代の母と兄を腸チフスで失うこと。「門」での腸チフスとインフルエンザ。漱石の右頬に残る痘痕。「感染症としての天然痘の痕跡を、『文明開化』の歴史の中で意識し続ける」眼差し。興味深く読んだ。2023/05/12
麦畑五十郎
0
このごろ世界に流行るもの、夜討、強盗、オミクロン。 と落書きに書かれそうな帝国主義、反知性主義、希望格差にうちひしがられる人々の絶望・虚無・憎悪、そこに漬け込むエセ救国思想に、感染症。漱石の観ていた世界と今の景色とに、どこが違いがあろうか。確実な違いはいまの景色に漱石がいないことである。2022/07/19
396ay
0
総合図書館。精神の病についての記載は特にないが、勉強になったので以下めも2022/03/19