出版社内容情報
戦後80年記念!作家・伊藤整が記した「戦争日記」を精読する!!本書は『太平洋戦争日記』全3巻[昭和16(1941)年/昭和17(1942)年/昭和18(1943)年/昭和19(1944)年/昭和20(1945)年]を要約したものである。日本戦時下の尋常ではない様子を明確に把握することができる日記である。それらをくっきり浮かび上がらせるよう、内実を重視し小見出しを付した。
伊藤の日記を目の前にしたときには思わず唸った。太平洋戦争下での日記だからなおさらだった。伊藤が約4年間の日記を公開されるものとして書いたかどうかは知らない。病気、便の質、結核に冒されて友人夫婦が次々と子供を残して死んでゆく悲劇など、読者に不快感を覚えさせては商品にはならない。でもありのままを書いて、そこに戦時下の生活や戦況の実相を提示したいという企図の下でなら日常生活への密着は大いにありうる。当時、伊藤への原稿・単行本の依頼は、戦後にはどこへ行ったか知られない中小出版社からの要請がかなりあって、原稿を依頼した版元でいまに残っているのは、新潮社、河出書房くらいで、あとの中小出版社は日記が終了した以後の戦後には生き残られなかったのではないか。また、そういう意味では、それらの版元は貴重な版元と謂え、伊藤の筆一本と自認する生活を支えてくれたことになる。日記のなかで整は盛んに印税・増刷分の印税、雑誌の原稿料の計算を行なっている。どの版元も規模にかかわらず原稿料を支払っている。昨今の出版苦境とは大違いで、戦前は筆一本でもなんとか食べていくことができたことを示している。現在の出版業界と往時の人々の書籍への関心には大きな隔たりがあるという事であろう………。
【目次】