出版社内容情報
1887年に創業したタイの名門 オリエンタルホテル(のちのジ・オリエンタル・バンコク、現在のマンダリン・オリエンタル・バンコク)の歴史は、近代の幕開けとともに始まった。スエズ運河開通以降、欧州では、国外市場開拓のための貿易強化が急速に進み、アジアへの旅行ブームとともに、アジア全体への植民地支配の動きは強まっていくこととなり、このホテルも、様々な時の勢力に利用されていたのだった。そしてタイでは、王室の巧みな外交もあり、西欧諸国との不平等条約は締結したものの、欧米列強との自由貿易体制に組み込まれることによって、少なくとも西欧諸国に植民地化されることは免れていた。しかし、第二次世界大戦中になると、日本軍が進駐することで、ホテルは日本陸軍の施設として使われることになり、日本の帝国ホテルが運営を担うことになった。激動する近現代史のなか、名門 オリエンタルホテルには、貿易商や実業家、シルク王、世界を放浪する写真家などが宿泊し、歴代の経営者・支配人たちは、このホテルの連綿たる歴史を紡いで行ったのである。本書は、サマセット・モーム、ジョゼフ・コンラッド、三島由紀夫などの作家や世界の王族に愛されたこのホテルの波瀾万丈の歴史をひもとき、多彩な人々の人生が織りなした歴史ノンフィクションを描いたものである。
【目次】
第一章 ホテルの起源
チャオプラヤー川のほとり
船長が川岸につくった船員宿泊所
「悲運の王子」の屋敷跡地
スエズ運河がもたらした大旅行時代
サーキーズ四兄弟の足跡
開業翌年に投宿したジョゼフ・コンラッド
チュラロンコーン国王の苦悩
第二章 世紀末から大戦の時代へ
二代目経営者のルイス・レオノウエンズ
やり手女性支配人のマリア・メレー
ホテルで病臥したサマセット・モーム
タイに駐留した日本陸軍
帝国ホテルが運営受託した経緯
日本軍憲兵隊中佐の手記
インパールの敗走、そして敗戦
第三章 ジム・トンプソンとジェルメーヌ・クルル
戦後タイのカオス
特殊工作員だったジム・トンプソン
女流写真家のジェルメーヌ・クルル
アメリカ軍の接収解除
旅行ブーム到来で競争激化
トンプソンのその後
第四章 新時代を迎えたアジア
クルルの苦闘、ホテルとの離別
モームの最後の旅
トンプソン失踪の謎
三島由紀夫『暁の寺』のホテル
経済開発とベトナム戦争で成長した観光
若きカート・ヴァクトバイトルの登場
マンダリン・オリエンタルの出自