出版社内容情報
20世紀英国を代表する女性作家の一人、
エリザベス・ボウエン(1899-1973)。
リアリズムの手法を超え、時にゴシック性を取り込み、
内面の心理をとらえたモダニスティックで斬新な作品は、
現在も高く評価されているものの、日本での紹介は遅れてきた。
昨今、『最後の九月』(而立書房、2016)、『日ざかり』、
『心の死』(晶文社、2015)、『パリの家』(晶文社、2014)、
『ボウエン幻想短篇集』(国書刊行会、2012)等、
翻訳紹介が続くなか、
ボウエン文学の魅力を伝え、ボウエン研究の成果を問う論集。
内容説明
20世紀英国文壇の重鎮、エリザベス・ボウエン(1899~1973)。二度の世界大戦を経験した20世紀にボウエンが見た荒廃と絶望は、今も終わりが見えない―イギリス伝統の風習喜劇に実存主義的視点を持ち込み、ゴーストに人間の心理の深奥をさぐらせるゴシック性。ボウエン文学の稀有な魅力に迫り、その全容の研究成果を問う。
目次
ボウエンの文学的評価の変遷と現状―ボウエンという遠雷
ボウエンにとっての場所とアイデンティティ―文学的ヴィジョンの核心
アングロ・アイリッシュとしてのボウエンの源流―『七たびの冬』にみる自我の形成
「熱気」から「残骸」へ―ボウエンの『日ざかり』とイシグロの『日の名残り』に見る冷戦構造
ボウエンと乱舞する怪奇幻想の世界―そのゴシック小説の水脈を探る
ボウエン文学の土壌としての少女領域―『エヴァ・トラウト―移りゆく風景』を中心にして
“もの”は語る―人・家・自然が生み出す詩的でない言葉
語られない過去をめぐって―『心の死』におけるゆがんだ世界、ゆがめられた心
『日ざかり』における饒舌と寡黙―アンチロマンス・アイデンティティ・戦争
虚構という孤独の言葉―『エヴァ・トラウト』における語りえない言葉を求めて
〈どこにもない場所〉を生きる―「あの薔薇を見てよ」における場所の狂い、ファンタジー、そして無
時空間を飛翔する想像力―「幸せな秋の野原」を読み解く
〈私〉が〈彼女〉になる時―「第三者の影」、「林檎の木」、「幻のコー」論
戦争のエピファニー―「ラヴ・ストーリー 一九三九」、「幻のコー」を中心に
ロンドン空襲下のさまよえる孤独な魂―ボウエンとグレアム・グリーンの短編を比較して
ハーディを通して読むボウエン―隠れた共通点を探って
ボウエンのT.S.エリオットとの邂逅―私人、作家、書評家として
ボウエンが見た若い娘たち―「現代娘であること」を読む