内容説明
1972年に発表された荒巻義雄の原点ともいうべき作品。1973年、第1回泉鏡花文学賞の最終候補作品でもある。
著者等紹介
荒巻義雄[アラマキヨシオ]
1933年小樽市生まれ。早稲田大学で心理学、北海学園大学で土木・建築学を修める。日本SFの第一世代の主力作家の一人。現在も札幌で旺盛な作家活動を続けている
巽孝之[タツミタカユキ]
SF評論家、慶應義塾大学教授
三浦祐嗣[ミウラユウジ]
SF研究家、元北海道新聞文化部長。イスカーチェリSFクラブ元会長(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Miyoshi Hirotaka
19
ヨーロッパ各地を放浪し、喪失した記憶を取り戻す旅。現実世界だけでなくマルキ・ド・サドのモチーフに彩られた異世界とも行き来する。両世界で主人公を取り巻く人物が同一人物に見えることもある。例えるとメビウスの環が二つあって、それぞれでは同じことが繰り返されるが、もう一つの環との行き来も出来るようなもの。一方、作中の加能純子は、天才少女画家といわれた加清純子で実在の人物。渡辺淳一は『阿寒に果つ』で描いた。ちなみに3人は札幌南高の同期生。才能は時として狭い場所と同じ時代に集中し、互いを刺激し、違う運命を選択させる。2024/12/23
ぶうたん
4
著者の作品には思い入れが強く、初期の短篇集は自分にしては珍しく何回か読み返しているほど好きである。それにも関わらず本書は何故か読まないままでいたのだが、今回メタSF全集が刊行されたため、思いきって手に取った。ヨーロッパを舞台にして重層的に構築された作品で、まぎれもない傑作である。全く古びていないし、特に最終章のシュールリアリスティックな描写にはしびれてしまう。読む度に異なる印象を受けそうで、本作も折に触れて読み返すことになりそうだ。でもその前にサドも読まなきゃいけないですね。2014/12/08
Schunag
3
ただし角川文庫版にて。2024/05/19
渡邊利道
3
驚愕の完結編が出た三部作一作目。曖昧な動機からヨーロッパを旅する建築技師が、サドのモチーフに彩られた〈異界〉に迷い込み、精神分析と芸術論の迷宮をくぐり抜けながら〈真相〉へ辿り着く。マニエリスムや数学的な思弁によって、主人公が移動し続ける時間や空間の風景に独特の幻想的な奥行きが生まれ、ミステリタッチの物語の展開に、少しロブ=グリエなども思わせるところがあって、また作品の核を為すのがまるで少年のような「愛」と言うかほとんど「愛への憧れ」なので、基本的にはとてもポップな作品になっている。2017/09/26
ぐーたり
3
いいトシになってから再読しようとしたら挫折したけれど、高校生のときにこの小説を読んで魅了されました。曇天の快楽というか、苦痛なのに甘さに満ちている雰囲気に酔ったのでした。強烈に北海道に住みたいと思い、北大志望して入学し6年住みました。いま帯は工藤先生の名がありますね。なつかしいな、北大のロシア語の先生でした。