内容説明
2012年から2015年までの433首を収録。
目次
1 二〇一二年(縦長の絵;大飯 ほか)
2 二〇一三年(石榴のごとき;1979 ほか)
3 二〇一四年(鳥の見しもの;一円玉 ほか)
4 二〇一五年(櫻谷/二〇二〇年の綿花;雪はこぶ雲 ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
双海(ふたみ)
8
2012年から2015年までの433首を収録。「読み終えし本は水面のしずけさのもうすこしだけ机に置かむ」「石段の深きところは濡らさずに雨は過ぎたり夕山の雨」「透明な死が横たわるいくつもいくつも春のひかりと同じになりて」「路に差す冬の光にこわばりがなくなるころを菫咲きおり」2023/07/01
kaoru
8
吉川宏志氏は私の好きな歌人である。あくまで端正な歌風で、ある時は家族を、ある時は原発や沖縄といった重い問題を歌う。評論にも見るべきものがあり、聡明な人だと思う。軽薄な歌がとかくもてはやされる昨今だが、正統派の歌人としてこれからも歌い続けてもらいたい。「ぽむぽむとペットボトルの水を押す 炉を冷やしいる水もある今」「横波に揺らるる船に見ていたり肌色卵のような原発」「ふるえつつ木から飛びゆく花びらのすべての中の一つ見ており」「立ちながら殺されてゆく樹がありぬ或る条文のようにしずかに」2019/04/04
はち
3
再読。成長する子供たち、変化していく政治状況、亡くなる人たち。体当たりで詠まれていると感じた。派手さはないかもしれないが、被災地にも、デモにも自ら行き、その場で見たこと聞いたことは迫力がある。堅実な作りであるため、地味に見えてしまうかもしれないが、再読に耐え得る歌集だ。2016/09/18
はち
3
前作と比べるとやや大人しくなった印象がある。前作は地元の災害、震災があったせいもあるのか。比較的時事詠多めの印象。その中でも気になる歌が何首もあった。良い意味で安定している歌集だなぁと思う。2016/09/08
toron*
2
一生のはんぶんをすでに費いしか冬木のならぶわが誕生日 雪の日の橋はあたまと尾がありぬ頭をなでて渡りゆくかな ドワーフは伝説のなかの小さき民 長き乾し草咥えていたり 立ちながら殺されてゆく樹がありぬ或る条文のようにしずかに 人を抱くとは映画ほどの時間にて雪吸われゆく川を渡りぬ 『石蓮花』は沖縄での活動が詠まれていたが、大飯原発のデモにも加わっていたことを知る。個人的にあまり子どもを詠んだ歌が得意ではないのだけど、吉川さんの歌は、子どもというよりひとりの人間と接している感が強くて、快く読めた。2020/07/26