内容説明
悲劇『オイディプス王』のいたるところに、作者ソフォクレスはこれまで語られたことのない解釈を導く仕掛けをちりばめていた。それらを手がかりに著者は、予言者テイレシアスもオイディプスの母妻イオカステも、コーラスを形成するテーバイ市民たちさえも主人公の素性を知っていたことを解明する。オイディプスの母子相姦と父殺しは、誰も知らなかったのではなく、町ぐるみで黙認されていたのだった。著者の分析はさらに、はじめて見えてきたこの悲劇の風景の中に滲んでいる歴史的奥行きを抽出し、また啓蒙王オイディプスの救済の方向をも読み解く。
目次
第1章 予言しない予言者と羊飼たち
第2章 演技するイオカステ
第3章 ギリシア悲劇のなかの民衆
第4章 コーラスについての間奏曲―シュレーゲル、シラー、ヘーゲル、アリストテレス、ニーチェ
第5章 市民たちのコーラス(1)―変貌する市民
第6章 市民たちのコーラス(2)―王を犠牲にする市民
第7章 オイディプスの啓蒙とその陥穽
第8章 スフィンクスとの戦いとオイディプスの救い
著者等紹介
山本淳[ヤマモトジュン]
団塊の世代。中央大学、ミュンヒェン大学、ベルリン自由大学、チューリッヒ大学にドイツ文学、政治哲学、宗教哲学を学ぶ。Dr.phil.(ベルリン自由大学)。現在、豊橋技術科学大学教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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みのくま
4
イオカステは「知っていた」というのは説得力がある。作品を読むと終始イオカステの言動には違和感があるし、続編「コロノスのオイディプス」におけるオイディプスのイオカステに対する冷たい態度も、イオカステが全て知っており「騙していた」とオイディプスが思っていたのならば納得がいく。だが、コロスについてはどうか。コロスはヘーゲルの言う作品外の存在ではないが、著者が主張するように純粋に作品内のみの存在ではない。コロスはオイディプスの物語を常識として知っている観客が、作品に没入する為に知らない体でいる表象ではないだろうか2024/01/17
くろねこ
4
オイディプス王を読むと感じる違和感を丁寧に解きほぐしています。特に興味深かったのは、コーラスについての間奏曲。ソフォクレスがオイディプスを書いた時代の社会について説明しながら、コーラスがどのような被支配者としての市民であるかを明らかにして、そこからその後、コーラスの言葉を読み解いていく。また内容ではないですが、あとがきその後にある、著者と全てではないとしても部分的に同じ見解を持ったドイツ人の分析家との交流とそこからの気づきや視点の深まりもいいなぁと思いました。2019/10/07
yupo
0
オイディプスの出生の悲劇を知らなかったのはじつは本人だけなんじゃねーの(意訳)的な本。悲劇なんて読者再度地をもうわかってから読み始めることもあるし確かになぁと納得はする、ただ罰を受けるために生まれてくる人生ってのはなんか寂しいものだよなぁ……2016/01/14