出版社内容情報
2020年に再開された《異形コレクション》(光文社)で、注目されている作家・アンソロジスト、井上雅彦の個人アンソロジー。現在では入手困難な媒体に発表されたものを中心に、書き下ろし1篇を加えた全13篇を収録。それぞれの作品には、手法と意図を分析した「作者のコメンタリー」を掲載。そこからは、著者の「短篇論」「ホラー論」も浮かびあがる。
【収録作】
●私設博物館資料目録
●飢えている刀鋩
●抜粋された学級文集への注解
●闇仕事
●三色の心霊遊戯
●天使が来たりて
●笹色紅
●グラーフ・フィルム
●翩譚集――あるいは、或る都の物語
●夜の聲 夜の旅
●デモン・ウォーズ
●宵闇色の水瓶
●レッテラ・ブラックの肖像
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
yukaring
64
とても耽美で妖しい闇に取り込まれそうな幻想怪奇短編集。異形コレクションの監修者で知られる井上雅彦さんによる実験的な1冊。特に好みなのは『私設博物館資料目録』心霊写真の「写真イ」〈死に人形〉の「標本C」などひたすら並ぶ不気味なコレクション目録にジワジワと忍びよる根元的な恐怖。他にも面白かったのは『奇談倶楽部』もの。会員制の空間には〈建築家〉や〈骨董屋〉など渾名で呼ばれる人々が集まり異形の物語を語り合う。一話ごとに挿入される作者のコメンタリーで心霊科学や怪奇小説に関する幅広い知識が披露されるのが興味深い。2025/02/15
あたびー
37
実験的な手法で書かれた作品を多く含む、攻めたホラー短編集。作者が長年編纂している「異形コレクション」からも作品が多数輸入されている。澤村伊智氏も巻末の解説で称賛している「私設博物館資料目録」は、私もとても好きだった。そのように、何かしら新しい手法を盛り込んで挑戦しているところがワクワクする。クトゥルフ神話を題材にしている「夜の聲夜の旅」は、その方面には明るくないので分からなかったが、マニアさん欣喜雀躍ものらしい。エクソシストをいじった「デモン・ウォーズ」は大いに楽しんだ。2025/07/30
えも
31
怪奇幻想短編集。幻想だけではなく、ましてや怪奇だけでもない、両者相乱れての末の、この陶酔感▼宵闇色は、英語でTwilight color。そう、たそがれ(誰ぞ彼)であり、かはたれ(彼は誰)であるところの、いわゆる逢魔ヶ時。まさに怪奇と幻想にふさわしい色彩▼そんな宵闇色を纏った、鏡花や乱歩の正統な後継者が騙る言霊の世界に揺蕩う、その快楽ぞ愉しき。2025/05/29
みや
13
13編収録。各々のテーマも面白いが一発ネタ勝負ではなく、味わい深い文章で魅せるホラーが揃う。不穏で不安で不気味だけれど、どこか懐かしい質感に心が安らいだ。特に『翩譚集~』のエロティックでグロテスクな表現が好き。早すぎた屈葬の「背骨は声帯よりも饒舌に悲鳴をあげ、」に私の全身も痺れた。『いつもの言葉をもう一度』はショートショートの短さに霊界の喜怒哀楽が凝縮していて凄い。『飢えている刀鋩』は日本の因習の湿り気を、『デモン・ウォーズ』はエクソシスト大戦争の迫力を楽しんだ。『天使が来たりて』のホラー談義が羨ましい!2025/08/12
ほたる
11
「私設博物館資料目録」架空のモノをあたかも実在しているかのように見せる面白さ、そしてそのモノ自体の怖さにゾッとする。「飢えている刀鋩」絵を想像したときにこれが一番おぞましく怖かった。最後の幕切れを読み終わってもまだしばらく恐怖に包まれる。「天使が来たりて」謎に包まれた天使の不気味な美しさに終始圧倒され惹き込まれた。天使に関する描写から想像される絵の美麗さが強く印象に残る。「宵闇色の水瓶」タイトルに負けない幻想的な美しさ。物語がある一点に辿り着き転換点を迎えてからの描写に脱帽する。2024/11/17
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