内容説明
パーソナリティ障害は、自傷、多量服薬、性的奔逸、過食、ひきこもりといった病的行為が前面に現れ、“悩む”から“行為をする”病態へと変遷している。そして苦痛な感情や困難な葛藤を抱え対処するのが当事者のみならず関係者や治療者でもある点に、パーソナリティ障害の難しさがある。したがって、症状や病的行為という目先の問題の緩和をもって良しとするのは早計であり、その意味でこそ、“エビデンスベースト”の名のもとにある安易な治療実践にはない、病者のこころに真摯に働きかける精神分析的心理療法が求められる。本書は、パーソナリティ障害への精神分析的心理療法という、病者のこころの本質を知り、その本質に働きかけていく治療手技の実際を提示することを試みる。さらに、そのために求められる理論や鑑別、治療手技が活きるための協同態勢や環境の準備についても提示している。
目次
第1部 視点(パーソナリテイ障害の今日的分類と力動精神医学;パーソナリティ障害のメタサイコロジィ;総説:パーソナリティの病理構造とパーソナリティ障害)
第2部 分析的心理療法の実際(ねじれた愛情希求―万能的な充足願望と満たされなさへの不耐性;ひきこもり男性における薄皮のナルシシズム;治療の行き詰まりと、愚直に逆転移の吟味を反芻すること―パーソナリティ障害の事例との経験から;不在の乳房からの待避―乳房の不在という考えの芽生え;中年期におけるパーソナリティ障害―覆い隠されてきた罪悪感の痛みと心的変化への抵抗;無知であることをめぐって―倒錯と実演;関係性の培地―病的依存から「孤立」を育む「依存」へ)
第3部 コンテイニング(パーソナリティ障害における逆転移―“共狂い”から理解を産み出すこと;パーソナリティ障害の看護の実際―患者と向き合う看護;パーソナリティ障害と集団―その病理と協働の医療;マネージメントで行うことと注意すること―病理行動がきわだつパーソナリティ障害の場合)
著者等紹介
松木邦裕[マツキクニヒロ]
1950年佐賀市生まれ。熊本大学医学部卒。1985年から1987年に英国ロンドンのタビストック・クリニックへ留学。2009年~2016年京都大学大学院教育学研究科教授。現在は精神分析個人開業。日本精神分析協会正会員。京都大学名誉教授
福井敏[フクイサトシ]
京都府綾部市に生まれ育つ。1977年大阪市立大学医学部卒業後、福岡大学医学部精神医学教室にて研修・臨床に当たる。1986年~1989年、米国メニンガー・クリニックに留学。2011年~2013年、ニューヨーク・ホワイト研究所に留学。その後、油山病院、野中クリニックにて臨床に従事するとともに、自らのオフィス(精神分析研究室(2))にて自由診療を実践している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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