内容説明
生きづらさを抱えた人々の自己表現は、新たな社会とのかかわりを生み出し、表現者に「生」をよみがえらせる。絵やセルフ・ドキュメンタリー等の自己表現と他者との共感によって、社会のなかで生きる意欲を取り戻していくプロセスを明らかにする。
目次
第1部 臨“生”のアート(精神科病院のなかの芸術活動;アートと医療・福祉の交差)
第2部 自己表現によってよみがえる「生」(生きづらさとさまざまな自己表現;自己を撮るセルフ・ドキュメンタリー)
著者等紹介
藤澤三佳[フジサワミカ]
1988年京都大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得修了。現在、京都造形芸術大学芸術学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
井月 奎(いづき けい)
47
心の病や精神的疾患、虐待や人間関係の歪みから社会生活を過ごすことが困難になってしまっている人たちが、創作により病や疾患、歪んだ人間関係性が緩和することが多く、苦しみがなくなると創作ができなくなる、創作が必要でなくなる人もいるそうです。私はどうしても作品を第一に考えてしまうので、そうした創作をやめた人に対して惜しいと思ってしまうのです。人の苦しみがなくなったと言う事は喜ぶべきことですが、それが素直にできないのです。私が身勝手で残酷なのかもしれませんが、もしかしたら美の残酷さなのかもしれません。2021/10/20
くさてる
14
自傷行為や摂食障害、精神障害などの問題から生じる生きづらさを抱えた人々が、その苦しみを絵や映像などのなかに自己表現することによって「生」をよみがえらせていく過程がこの世界にはある。それを紹介した内容。個人的には木村千穂さんの絵画に魂をぐっと握られたような気分になって、彼女の作品が掲載されている頁からしばらく目が離せなかった。彼女が回復と共に絵を描くことを必要としなくなったことも納得できるくらいに、彼女のすべてを引き受けてくれていたであろう、素晴らしい絵だった。表現が人を救う意味を信じられる一冊。2015/01/10
金木犀
3
興味深い内容だった。精神疾患を抱える人や虐待、摂食障害など様々な「生きづらさ」を抱える人がアートと出会うことによって生じた変化を描いている。視覚言語とも言われる芸術を通して自己表現を行うことによって「あきらめないで、生きていて良かった」という言葉が出てくるのには、芸術療法の可能性を感じた。また本書を読んで、実際に自分も絵を描いてみようと思うことができた。そして魅力的な作風の木村千穂さんは、絵画療法通して社会復帰した後、「絵を描く必要性が無くなった」と語っていたがそれは創作がその役割を終えたことを表すのか。2021/07/22
ジュリ
3
絵画などで自分を表現することは、生きるを支えることなのかもしれない。表現することで生きることができたと語っている人もいた。2018/07/07
ひつまぶし
0
題材と表現と自己の三者関係について考えさせられた。生きづらさを抱える人にとって、自己の生きづらさそのものが題材であり、表現にもなる。そこで必要なのは承認であり、自己表現が社会的な評価を得るほどの力を備えている。一方、社会的な評価を求めて表現をする場合、題材と自己との距離の取り方や関わり方が問われるのだろう。加えて題材と自己との間に社会性を成立させ、その上で認められるだけの技術が必要となるわけだ。アートの近代的隔離と制度化を論じたというデューイの芸術論とからめた説明も面白い。アートのみに言えることではない。2023/03/28