内容説明
新京憲兵隊特高課「工藤室」。満州国の首都・新京で活動する敵性国のスパイ網を殲滅すべく、一九三七年九月、工藤胖憲兵軍曹を長として室員わずか七名で編成された特命防諜班―任務秘匿のため防諜班の呼称は部内でも禁じられ、室員は制服を着用せず、軍の服務規程の一切が免除された―知られざる戦いの記録。
目次
諜報憲兵となる
新京憲兵隊防諜班
隠密逮捕第一号
大物スパイ・王文吉
モスクワ入りした逆スパイ
諜報・ノモンハン
逆スパイ続々と入ソ
赤軍無電局を接収
スパイの天国・満州国
闇に消えたスパイ
ゾルゲ事件余話
日英諜報戦余話
イタリア外交暗号書入手工作
ラマ僧は参謀本部員
わが心の勲章
著者等紹介
工藤胖[クドウユタカ]
1907年、青森県生まれ。1929年12月、憲兵上等兵拝命、山形憲兵分隊勤務。1937年9月より新京(長春)憲兵隊本部特高課防諜班長。1944年4月、中野陸軍憲兵学校教官。終戦時、北部憲兵司令部(札幌)に勤務、憲兵大尉。戦後、大阪市の警察署長に任じられるもGHQの公職追放令により貿易会社勤務、飲食店経営等を経て、リッカーミシンに入社、関西各地の支店長を歴任。退職後、83歳まで保険会社の調査員を務める。元滋賀県憲友会会長。1999年9月21日、没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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yamatoshiuruhashi
49
満州における防諜班の活躍。いかにスパイや通敵者が跳梁跋扈していたかがわかり驚く。本書は通敵者を如何に発見し出来得れば味方と変えようとする地道な記録である。戦前と戦後の考え方が大きく変わったのは日本だけで、ソ連や中共の体質は戦前から一貫している。つまり戦後の日本にも彼らの養成した情報提供者が国内に沢山いたのは間違いない。それに対して何らの対策も公になしてこなかったことは大きな過ちではなかっただろうか。「憲兵」の活動範囲、法的根拠など知らなかったこともあり、これで当時のことをより理解する一助となる。2021/10/23
roatsu
20
著者は満州国新京にて昭和12年から防諜任務に活躍した辣腕憲兵。満州の昭和10年代におけるソ連の対日諜報工作の恐るべき実態とこれに日本流インテリジェンスで対峙した憲兵隊特高課の活躍が綴られる。ゾルゲ事件余話の章は重要な昭和戦争裏面史だろう。軍や内閣にまで共産勢力の浸透と工作を許し、営々と準備してきた北進戦略を亡国の対米南進に転換されて敵国ソ連を援助する愚を犯した大失策は現代でこそ真剣に反省すべき。国民に防諜のボの字もなく、組犯法改正にすら幼稚に反抗する馬鹿者が増えた現代は戦前に比していかに謀略が仕掛けやす2017/06/14
筑紫の國造
10
著者は昭和12年より満洲の首都・新京で諜報任務に関わった元憲兵将校。特高科の憲兵として、「工藤室」を主宰し、ソ連が送り込んだスパイの摘発や逆用に活躍する。銃撃戦などはないが、敵スパイを探し出し、これを説得して寝返らせる工作は地道で忍耐力のいる仕事であることがよくわかる。スパイ摘発に知恵を使うのはもちろんだが、逆用するには人間的魅力もなければならない。相手もプロのスパイであるから、上部だけの誠意ではすぐに見透かされてしまうだろう。歴史の表舞台に立たないが、陰には彼らのような諜報に携わる人々の姿を伝えている。2019/11/06
ながぐつ
5
戦前の日本のミクロな防諜・謀略の一面を表した本であったが、自伝であることを割引いても著者の働きはめざましいものであり、著者が人格者であることが強く作用している。これまで持っていた高圧的で杓子定規なイメージの憲兵ではなく、柔軟かつ相手の心情を理解し、ただ処罰するためではなく、情報を聞き出したり、スパイの逆用するなど「諜報」憲兵として何が求められていたのかをよく心得ていた方だと思う。そして日本のスパイ天国な防諜体制にも警鐘を鳴らしている。私権の制限や監視は到底許されないが、このままでいいのかという感はあった。2020/08/23
フルボッコス代官
3
まさにテレビドラマにしてもいいほどのスパイ合戦が繰り広げられている一冊。実際に著者が体験した内容なのでリアリティもある。まぁ、主観的・ちょい盛り程度は、誤差の範囲として全然許されるもの。こんなやり口で満州で裏工作が行われていたのかと胸が躍る一冊。2020/08/23