内容説明
法廷通訳。外国人が被疑者となる場合、司法通訳は必須の存在であるが、その仕事の実情はほとんど知られていない。しかし「誤訳」は人に刑罰を科する手続きにおいて正しく言葉が伝達されない深刻な状況をもたらす。その背景には何らの資格試験や法律も整備されていないという意外な現状が存在している。司法通訳に求められるものは何なのか。我が国の本質的な問題としてその根底にあるものは何か。本書はトップクラスの司法通訳人である著者からのプロフェッショナリズムに満ちたメッセージである。
目次
1 司法通訳とはどのような仕事か
2 プロフェッションとしての司法通訳
3 来日外国人犯罪、刑事手続きの現状
4 司法通訳人に法律知識は必要ないのか?
5 イメージの違い、厳密な通訳に必要なこと
6 グローバル化する社会と司法、司法通訳の能力向上のために必要なもの
著者等紹介
小林裕子[コバヤシヤスコ]
北海道札幌市生まれ。明海大学外国語学部教授。最高裁判所法廷通訳人候補者名簿登載、法テラス司法通訳人、埼玉県弁護士会通訳人。青山学院大学非常勤講師。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。法学修士(北海学園大学大学院法学研究科法律学専攻)。札幌地方検察庁通訳、在札幌米国総領事館通訳を経て2008年より明海大学在職。尾崎行雄記念財団咢堂塾第10期生。英検1級。国連英検特A級。通訳案内士(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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がらくたどん
44
日本での「難民認定」のハードルの高さにまつわる文章をいくつか読んできた。今回ウクライナからの難民に思いのほか素早く対応した?と思ったのだがよく見たら「避難民」という特別枠での短期応急対応。でもこれは「前例」となる政治措置。もし今後ウクライナレベルの国際世論が動く事態が生じたら「いや~今回は」とは言いにくくないか?で、自国で心身ともに不安に陥り短期故にコミュニティーにゆっくり溶け込む余裕が見えない多国籍の人々。文化の違いから犯意がなくとも法に抵触する場合も当然あろう。隣の誰かのために知っておきたい存在だ。2022/04/24
サトシ@朝練ファイト
25
司法の側面を通訳という場面からライトを当てています。以下メモ(人口10万人当たり刑務所収容者数)アメリカ655人、カナダ114人、フランス100人、ドイツ75人、スウェーデン59人、日本41人。来日外国人犯罪の総検挙人員をみても2004年と比べると2018年は半分かい。興味深い参考文献が多いけど近場の図書館に無いのがつらいな。2020/01/04
アルカリオン
16
色々と考える材料になる良書。著者は現役司法通訳人(ほぼ必然的にスポットベース)かつ明海大学外国語学部教授▼同時通訳界のレジェンド、小松達也氏も明海大学外国語学部教授を務めていたとのこと(2008年退任)▼明海大学と言えば大仁田厚が入学した大学(後、明治大学に転学)という印象しかなかったが、小松氏や著者が教鞭をとっているということなので、通訳教育体制に興味を覚えた。2023/10/17
Nobu A
14
小林裕子著書初読。19年刊行。法律関係に関わることがあり、本書に興味が湧き手に取った次第。司法通訳人を取り巻く現状を200頁弱の本書によく纏めている。筆者の人柄が滲み出ている「あとがき」も秀逸。グローバル化が進展する国内において当該職種の拡充だけでなく教育の必要性。文化的差異から来る通訳人と外国人被疑者共に陥る盲点。両言語に精通しているだけでは十分に遂行できない職務。ある程度の法律知識が不可欠。関わらなければ一般人には当然知らない知見。必要不可欠な職種であり、懸念されている現状を痛感。とても勉強になった。2024/08/27
じじちょん
5
国の慣習や宗教、文化によって物事の捉え方が違う上、弁護士や取り調べの通訳は本当にデリケートで繊細という事が分かる。「故意」という一言についても、それがあったかどうか、それ以前に「故意」というのはどういう事なのか、説明が必要ということ。それ以外にも色々な問題がありすぎて、司法通訳人という仕事はかくも難しいが、専門性が高いと感じた。知らなかった。2020/02/19