出版社内容情報
本書は、清掃カーストを取り上げ、それに着目しつつ、「ヒンドゥー教の宿命として従属的状況を受け入れる」不可触民像を再検討する。
▼差別と困難に抗う新たな「不可触民」像
大都市デリーを舞台に、清掃カースト(バールミーキ)の人びとの声と運動からカーストの変容と現代的特質に迫る。
「自由・平等・民主主義」が憲法上保障された独立後のインドにおいて、カーストや不可触民差別というインド社会を特徴づけてきた問題はどのように変容しているのか?
不可触民とされてきた人びとをとりまく福祉政策の現状と課題、さらに、かれらにたいする減ることのない暴力・差別行為に抗する組織的活動や地位向上運動から、カーストの現代的特質を論じる。
デリーの清掃カースト・コミュニティにておこなってきたフィールドワークをもとにした意欲作。
第1章 カースト、不可触民差別は過去のものか?
<b>1 社会的現実としてのカースト</b>
<b>2 清掃カーストに関する研究の成果と課題</b>
(1) カーストとは何か
(2) カースト研究の三つのアプローチ
(3) 不可触民(ダリト)研究
(4) 清掃カースト研究
<b>3 カースト、不可触民問題の現代的特質と本研究の視座</b>
<b>4 本書の構成</b>
第2章 デリーの横顔
<b>1 デリーの概観</b>
(1) デリーの地理的特徴
(2) デリーの指定カースト
<b>2 「バールミーキ」の名のもとに結集するデリーの清掃カースト</b>
<b>3 外国人女性の参与観察者</b>
第3章 清掃カーストとされる人びと
<b>1 不可触民の起源</b>
<b>2 「不可触民」から「指定カースト」への制度化</b>
<b>3 指定カーストの地域的広がり</b>
<b>4 不可触民のなかの清掃カースト</b>
(1) 清掃カーストの起源
(2) 清掃カーストの名称と代表的なカースト
(3) 清掃カーストの「伝統的」職種
<b>5 発展から取り残される清掃カースト</b>
<b>―― デリーの国勢調査にみる指定カーストの内的格差</b>
(1) 教育
(2) 「伝統的」職種とのつながり ―― 清掃と皮なめしの比較
第4章 カースト制批判と不可触民解放をめぐる思想と政策
―― ガーンディー、ガーンディー主義者による清掃カースト問題の「解
決」
<b>1 不可触民解放の思想と運動の展開</b>
(1) ヒンドゥー教内部の改革運動
(2) 脱ヒンドゥー教的価値観を志向する運動
<b>2 カースト制批判と不可触民解放をめぐるガーンディーとアンベード</b>
<b>カルの対立</b>
<b>3 ガーンディー主義者による清掃カーストの問題「解決」 ―― NGO</b>
<b>スラブの活動</b>
(1) インドの開発NGOとガーンディー主義
(2) 清掃カーストの福祉政策にみる政府とNGOスラブの「共生」
(3) スラブの活動分析
<b>4 福祉政策における清掃カーストの「解放」の問題</b>
(1) SC政策の時代的特徴 ―― 独立以降から1990年代の経済自由化
導入まで
(2) 清掃カーストを対象とする政策の概要
(3) 清掃カーストを対象とする政策の進展状況とその問題
(4) 福祉政策における清掃カーストの「解放」に関する批判的考察
第5章 バールミーキ住民の社会経済的状況
<b>1 デリーに住む ―― 物価高騰と住宅不足</b>
<b>2 調査地区(コロニー)の概況</b>
<b>3 バールミーキ住民の基本情報</b>
(1) 宗教
(2) 教育
(3) 世帯規模
(4) カースト内婚
(5)移住歴
<b>4 清掃労働の非正規化と「女性化」</b>
第6章 清掃カースト出身者の内なる葛藤と抵抗のかたち
<b>1 ダリト性(dalitness)への接近</b>
<b>2 働く ―― 清掃労働への恥じらい</b>
<b>3 学ぶ ―― 出自を知る、留保制度を足がかりにして</b>
<b>4 ロール・モデル意識の生成</b>
<b>5 結ばれる ―― 高学歴バールミーキのカップル</b>
<b>6 祈る ―― ヴァールミーキ詩聖崇拝にみる共属意識のゆらぎ</b>
(1) バールミーキ・アイデンティティの展開
(2) ガーンディー、大財閥ビルラーとデリーのヴァールミーキ詩聖寺
院
(3) 寺院の「歴史」認識
(4) 詩聖崇拝をめぐるカースト内の対立
第7章 清掃カーストの組織化と運動
―― 清掃労働者組合から公益訴訟へ(1960年代―2010年代)
<b>1 はじめに ―― 「エリート」の登場と拡散するダリト運動</b>
<b>2 運動体としてのカースト団体</b>
<b>3 清掃カーストの組織化とその変遷</b>
(1) 清掃労働者の結集(1960年代)
(2) カリスマ的指導者の登場による会議派と蜜月期、アンベードカル
生誕百年祭(1970年代―90年代初頭)
(3) 清掃労働者会議の分裂、運動の多様化(1990年代半ば―2010年
代)
<b>4 運動としての訴訟の始まり ―― 社会正義の実現手段として注目さ</b>
<b>れる公益訴訟</b>
(1) 人権侵害を告発する事例
(2) 指定カースト留保政策の改正を求める事例
<b>5 おわりに ―― 突破口としての司法の可能性と課題</b>
第8章 バールミーキの困難と挑戦のゆくえ
<b>1 各章の論点とその成果のまとめ</b>
<b>2 本研究の含意と残された課題</b>
おわりに
参考文献
図表・写真一覧
索 引
【著者紹介】
鈴木 真弥
1976年神奈川県生まれ。東京外国語大学外国語学部南西アジア課程ヒンディー語専攻卒業、Jawaharlal Nehru University, School of Social Sciences, Centre for the Studies of Social Systems, M.A. (Sociology)修了、 慶應義塾大学大学院社会学研究科後期博士課程単位取得退学。博士(社会学)。日本学術振興会特別研究員(PD)などを経て、現在、人間文化研究機構地域研究推進センター研究員(東京外国語大学特定研究員)。
専門は社会学、南アジア地域研究。
主な著作に「現代ダリト運動の射程」(共著、粟屋利江・井坂理穂・井上貴子編『現代インド5 周縁からの声』東京大学出版会、2015年)、「突破口としての司法」(石坂晋哉編『インドの社会運動と民主主義』昭和堂、2015年)、「被差別民の『解放』をめぐるインド社会とNGOの分析」(『解放社会学研究』21、2007年)など。
内容説明
「自由・平等・民主主義」が憲法上保障された独立後のインドにおいて、カーストや不可触民差別というインド社会を特徴づけてきた問題はどのように変容しているのか?不可触民とされてきた人びとをとりまく福祉政策の現状と課題、さらに、かれらにたいする減ることのない暴力・差別行為に抗する組織的活動や地位向上運動から、カーストの現代的特質を論じる。デリーの清掃カースト・コミュニティにておこなってきたフィールドワークをもとにした意欲作。
目次
第1章 カースト、不可触民差別は過去のものか?
第2章 デリーの横顔
第3章 清掃カーストとされる人びと
第4章 カースト制批判と不可触民解放をめぐる思想と政策―ガーンディー、ガーンディー主義者による清掃カースト問題の「解決」
第5章 バールミーキ住民の社会経済的状況
第6章 清掃カースト出身者の内なる葛藤と抵抗のかたち
第7章 清掃カーストの組織化と運動―清掃労働者組合から公益訴訟へ(一九六〇年代‐二〇一〇年代)
第8章 バールミーキの困難と挑戦のゆくえ
著者等紹介
鈴木真弥[スズキマヤ]
1976年神奈川県生まれ。東京外国語大学外国語学部南西アジア課程ヒンディー語専攻卒業、Jawaharlal Nehru University,School of Social Sciences,Centre for the Studies of Social Systems,M.A.(Sociology)修了、慶應義塾大学大学院社会学研究科後期博士課程単位取得退学。博士(社会学)。日本学術振興会特別研究員(PD)などを経て、現在、人間文化研究機構地域研究推進センター研究員(東京外国語大学特定研究員)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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