内容説明
ヨーロッパ中世において花を開き、近代思想の底流へと受け継がれたキリスト教神秘思想は、その源泉を古代末期のギリシア教父に遡る。その中で最も深く決定的な影響を与えたのが、本書に収録されたニュッサのグレゴリオス『モーセの生涯』とディオニシオス・アレオパギテース『神名論』ならびに『神秘神学』。これらの著作を抜きにしてキリスト教神秘思想を語ることはできない。言い表わすことのできない神の神秘について語るとは、どういうことか。人間の言語の可能性を絶する「暗闇」の中へと教父たちの思索は深まる。いずれも原典に基づいた本邦初訳。
目次
ニュッサのグレゴリオス(モーセの生涯)
ディオニシオス・アレオパギテース(神名論;神秘神学)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
evifrei
14
モーセを理想的な神的受容を成し遂げた人間の模として、その生涯をアレテー(徳)の追求と解読する『モーセの生涯』・新プラトン主義の影響を強く受け、神の永遠性を説く『神名論』・『神秘神学』の三篇を収める。特に『神名論』と『神秘神学』はディオニシオス・アレオパギテースの著によるものなのだが、彼のテキストが邦訳で読める事に小躍りした。新プラトン主義哲学が神秘主義的神学哲学に継受されていき、大きな影響を与えた過程を明晰に述べる解題も良い。また、『神名論』では天使についても存在論的に検討されており、此方も興味深かった。2020/06/27
あとがき
2
ディオニシオスの名を借りた6世紀の偽書。「神秘神学」と「神名論」が収録。両書は対照的でありながら補完的である。/「神秘神学」について。「否定神学」が徹底的に展開されている。あらゆる対象につき「[神は]〜でない」の形で否定を貫徹していく。そして「在らぬものでもなく、在るものでもない」といった否定によって、理性的把握そのものが否定される。否定する主体がいつの間にか否定されていたのだ。ついには「肯定も否定もない」と否定する行い自体も否定される。対象も自己も作用も失ったなにかはもはや絶対者と合一するほかない。2024/03/29