内容説明
キリスト者・内村鑑三の弟子として、結核の先駆的研究者でありながら戦争の時代に公然と反軍を唱え時代の霧と消えた医師、末永敏事―流転の人生を掘り起こす。
目次
序章
1章 米国へ
2章 帰郷
3章 暗転
4章 思想弾圧
5章 静江の軌跡
6章 謎
終章
著者等紹介
森永玲[モリナガリョウ]
長崎新聞記者。1964年長崎県佐世保市生まれ。1988年長崎新聞社入社。報道部、対馬支局、佐世保支社などを経て2009年報道部長。2016年から編集局長(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ちえ
23
正月に親戚の集まりでのプレゼント交換で、内村鑑三が創始した無教会派のキリスト教徒の叔父からいただいた本。少しずつ時間をかけて読みました。もともと長崎新聞に連載で載った記事なので読みやすい。100歳違い人たちへの丁寧な取材で、内村鑑三の弟子で戦時中反戦を唱えた、一人の結核研究医の人生を辿っています。このような人がいたことは驚きです。体制に反対する人たちへの弾圧がどのように進んでいったか、当時の状況も語られていますが、それは今の状況に繋がるような。とても考えさせられる本でした。2018/05/29
菱沼
4
知人のブログで知った本。医師末永敏事が1937年、国家総動員法にあたって、自ら茨城県知事に送った文書が表題となっている。「反戦主義者なので軍務は拒否します」というのだった。彼は逮捕・投獄され、アメリカでも認められた結核研究の業績も、末永敏事という人物そのものまで抹消され、忘れられていた。当時の周辺を丁寧に掘り起こした著者、100才に届こうとする証言者、多くの人々の力がすごいと思う。共謀罪と治安維持法の相似に今更ながら恐怖を感じる。「国家総動員」という言葉と「一億総活躍」という言葉もなんとなく似ている。2017/08/29
wakazukuri
1
結核研究者として抜きんでた存在であったにも関わらず、「末永敏事」と言う名を日本ではあまり知られていなかったのは残念であり、形跡が一部しか残されていないのは惜しい。そのまま、国家にあらがうことなく医師を続けていたらと思うと本当に残念だ。しかし、その足跡を追い、彼を直接知る人はほとんどいなく、関係者をたどっても少ない。100歳前後の人達に取材し、生きた証言を引き出せた著者には感服。記録が残って良かった。それにしても、「反戦主義者なる事通告」とは、自分に正直に生きた精神力の強さに驚く。2018/03/29
coge
0
日本で一世紀も経ってない昔の話、宗教や医療の歴史や、治安維持法、国家総動員法による思想や主義への圧力、色々考えさせられる一冊でした。2017/12/27
rinpei
0
戦事一色に染まりつつある時代に果敢に非を唱える日本人がいたことを見聞きするたびに、同じ日本人としてホッとします。末永敏事についてはこの本で初めて知り、感謝しています。それはそれとして、なんともはやまとまりのない本! 多少でも関係有る事を書けばいいというものじゃないだろうに。本当にこのタイトルで新聞連載していたとは。それでまた立派な(?)賞までいただいたとは。空いた口が塞がりません。2018/02/13