内容説明
神田明神下の長屋にひとりで暮らす摺師の安次郎。女房のお初に先立たれ、子の信太をお初の実家に預けながらも、一流の職人として様々な浮世絵を摺ってきた。そんな折、以前安次郎が摺った画の後摺が出回っていると、兄弟弟子の直助が摺り場に駆け込んできた。しかしその後摺は版元の意向か、絵師のきまぐれか、摺師の裁量か、いずれにしても安次郎が摺ったものとはべつな画に仕上がっていた。安次郎と親方の長五郎は、その後摺を見て、あり職人の名を思い出すが―。かけがえのない家族と、大切な仕事を守る浮世絵摺師を描いた傑作人情時代小説。
著者等紹介
梶よう子[カジヨウコ]
東京都生まれ。2005年「い草の花」で九州さが大衆文学賞大賞を受賞。08年「一朝の夢」で松本清張賞を受賞。15年『ヨイ豊』で直木賞候補、16年同作で歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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のぶ
76
この本、シリーズで第一弾があるのを知らずに読んだが、十分に面白かった。江戸の摺師のお仕事小説にして、親子の人情物で、5つの話が収められている連作集。主人公の安次郎は女房のお初に先立たれ、子の信太をお初の実家に預けながらも、一流の職人として様々な浮世絵を摺ってきた。信太の事を気にかけながら、仕事に打ち込む安次郎の姿に心打たれる。またこの親子を取り巻く人たちも個性に溢れ、良い人ばかりだ。父と子だけで離ればなれに生きていく生き方に人情が溢れていた。そんな話に合わせ、浮世絵の事が知れたのも良かった。2021/07/28
Y.yamabuki
16
前作で摺師の仕事を興味深く読んだが、時を経ての第二段 今作では、版元や絵師、彫り師の関係が良くわかった。控え目だけれど芯の通った安次郎、摺師としての矜持、父親としての息子信太への接し方に感心させられる。心配しつつも信太を静かに見守る安次郎とそれを手助けする長屋の人達の塩梅は絶妙だ。皆で子育てする温かさが心に沁みる。読み進むに連れ、信太とのこと幼馴染みの友恵のことと次第に話に引き込まれ、物語は腕競べでさらに盛り上がる。兄弟弟子の直助が、あちこちでいい味出している。第三段もあると嬉しい。2021/09/25
onasu
14
摺師安次郎の2巻目は初巻より1年後という設定。前半は初巻と同様、摺の技法を題名に職人にまつわる話しが続くが、後半はタイトルに沿って、亡くなった妻の実家に預けていた信太が、加えて、実家に出戻ったが家を飛び出した幼なじみの友恵が平穏にしていた安次郎の暮らしに加わってくる。 前半も安次郎の師匠格の伊蔵と倅の喜八、渡りの摺師の新吉、また弟分の直助、摺惣の父子と、ストーリーに絡めて「父子(親子)」を並べているのも見事。 続編は8年ぶりというが、自分は偶々見つけて半月ぶり。早々に再読も果たした佳作でした。2021/09/25
まき
10
摺師安次郎の2冊目。今回も摺りの技術や版元、絵師、彫師、摺師の関係がよくわかり面白かった。離れて暮らしていた息子信太と怪我がもとでも一緒に暮らせるようになって良かった。安次郎の親としての子供の意志を尊重した子育てがなかなかできるようでできないよね。つい口出して勝手に手助けしちゃうもんなぁ。そして何よりの読みどころが摺りの腕くらべ。安次郎の摺師の矜持が出ていた。友恵とはどうなるのかしら? 続編出てるんだけど、Kindle版がないんだよなぁ。2024/02/06
山内正
6
すまないなあお初又線香切らしちまった 鏡台の位牌へ これくらいが丁度いいって買った 紅も櫛も引出しに入ったまま 行ってくるよお初 摺師で二十ニ年 小僧が預かってきた夜桜の風景の後摺り 前にいた伊蔵って摺師のじゃ 色が見分けなくなって辞めた男 十くらいの子が奉公の植木より 色使いを習いたいと 喜八って名で 夜桜の絵をどう見るか 夜でも花の色が有るのにと 見抜きやがった 後摺りの違った色使いに注文が 久し振りだな安次郎 喜八は兄さんの子じゃねぇんですか人を雇う余裕はねぇが 小僧一人足りねえ 親方と膝を折る2022/03/15