内容説明
資産家で、気ままな一人暮らしの稔は五〇歳。たいていは、家で本ばかり読んでいる。読書に夢中になって、友人で顧問税理士の大竹が訪ねてきても気づかないぐらいだ。姉の雀も自由人。カメラマンでドイツに暮らしている。稔に似て本好きの娘の波十は、元恋人の渚と暮らしていて、ときどき会いにやってくるが…。なかなか暮れない、孤独で切実で愛すべき男と女たちと、頁をめくる官能と幸福を描く長編小説。各紙誌で大絶賛された傑作、待望の文庫化。
著者等紹介
江國香織[エクニカオリ]
1987年「草之丞の話」で小さな童話大賞を、89年「409ラドクリフ」でフェミナ賞受賞。小説として『こうばしい日々』(産経児童出版文化賞、坪田譲治文学賞)『きらきらひかる』(紫式部文学賞)『ぼくの小鳥ちゃん』(路傍の石文学賞)『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』(山本周五郎賞)『号泣する準備はできていた』(直木賞)『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』(谷崎潤一郎賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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しんごろ
201
大雑把に言えば資産家の稔の日常と読書という話。稔はけっこう流されるタイプかな。呑気というか。登場人物が多く、短いスパンで、登場人物が変わり場面展開するから、慣れるのに時間がかかる。慣れれば、面白いので読み進めれる。稔が読んでた海外小説の2作品。ラストが気になる。ラストシーンまで書きあげてほしかったな。読んでる途中での電話にインターフォン…。これはあるあるだね。章が終わりまで読まないと落ちつかないよね。さて、物語はというと、男と女、人それぞれ、いろいろある。まさになかなか暮れない夏の夕暮れという感じです。2020/05/14
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
158
読書好きで資産家の稔と、その周囲のひとたちの何ともない日常をくるくると描いている作品なのだけど、何とも心地よい。星を見たいときにふと思いたって見に行けないなら「何のために大人になったのか分からない」と詰ったり、来客の方に「せめて手を洗ってもらいなさい」という教えだったり。親しい人たちとそれぞれ本を読んで「べつべつな場所にでかけていながらおなじ場所にいることの、不思議さと満足と幸福感が高ま」ったり、子どもの頃の夏を思ったり。本を読む生活の幸福感をしみじみと感じるような素敵な本でした。大好き大好き♡2019/09/01
エドワード
77
裕福な家庭に育った雀と稔の姉弟、二人で暮らすさやかとチカ、五十代の二組の心象風景と周囲の人間模様。暇さえあれば本を読んでいる稔に自分が重なる。電話や声かけで読書を中断され、冒険に満ちた世界から現実に戻される稔の姿は、若さから徐々に遠ざかっていく私たちの世代のイメージ、<なかなか暮れない夏の夕暮れ>とは、老いを感じつつ若い日々に未練のある私たちの世代の暗喩ではなかろうか。定年後の生活を思い描くさやかの堅実な姿もどこか夢見がちだ。どこまで行っても愉楽を諦めきれない世代をここまで描けるのが江國香織さんだ。2019/08/31
チョコ
66
この世界にいたくて、他の本を読みながら、終わらないようにゆっくり読み進めてしまった。久しぶりに読み終わりたくない本だった。本の中で、読書のシーンがあって、二冊の他の本も読んだような気になっている。この中の登場人物、淳子も含めて皆好きだけど、大竹だけは別。こんな旦那は気持ち悪い。稔に諭してもらえてよかった。巻末の解説のように、本の世界を楽しむ、自分とは違う世界に溶ける。自分がいつもしている読書を主人公の稔がしている様子が、本当に自分に重なる。子供の波十も同じ。きっと本好きの方は皆この解説には共感すると思う。2025/01/08
佐島楓
66
歪んだ恋愛のかたちがいくつか出てくる。ひとは無意識のうちに悪意を垂れ流してしまうものだなとつくづく思う。江國さんの小説はそういうことをあまりにもさらっと書いていて、それが魅力である。2019/08/26