内容説明
都会のはずれのガケの上にある古いアパート。その屋根裏にひっそり暮らしている元オーボエ奏者のサユリ。唯一の友だちは、頭の中にいる小さなチェリー。個性的で魅力的な登場人物が織りなす待望の長編小説―。
著者等紹介
吉田篤弘[ヨシダアツヒロ]
1962年東京都生まれ。小説を執筆するかたわら、クラフト・エヴィング商會名義による著作とデザインの仕事を行っている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ちょろこ
159
心が凪いでくる一冊。無音だった世界が音を取り戻すような出会いの音を奏でていくような物語だった。静かに紡がれていく言葉と世界に、自然と心が凪いできて癒された。たぶん、人生というもの、人が一度は経験すること、心に抱えているものを吉田さんは優しく掬い上げ柔らかな言葉に変えてくれて、それが優しいメロディとなって心を撫でてくれるから。自分を一番理解している、きっと誰の心の中にもいる住人チェリーの存在も心に優しい。たとえ自問自答、遠回りしてもいつか自分の心が穏やかになれる場所がある、そんなことを教えてもらった気分。2021/09/08
けんとまん1007
119
チェリー・・・自分の中の自分の声なのかな。心の声とでも言えばいいのかもしれない。少しのきっかけが、少しの繋がりになり、それが回りまわって自分に帰ってくるようなものがたり。きっかけを作る人、しかも、新しいことを作る人は限られている。それは、必ずしも、俗にいうエネルギッシュな人とは限らない。そうではない、思索する人、人のことを思う人ではないだろうか。2021/09/29
シナモン
103
「流星シネマ」から繋がる3部作の2作目。レモンソーダをお供に屋根裏部屋でひっそりとした毎日を送っていたオーボエ奏者のサユリ。「もっと外へ出て行かなくちゃ」というチェリーの声の通り、町の人たちとの交流を通して少しずつサユリの世界は広がっていく。反対にチェリーの声は小さくなって最後にはどんなに耳を澄まして聞こえなくなって。それはたぶん一般的にはとても良いことなんだろうけど、なんだか寂しくて涙がにじんだ。ひっそりと物静かな世界観。でもさり気なく温かい。今回も没入感たっぷりの読書時間を楽しめました。2025/02/16
nico🐬波待ち中
96
サユリの頭の中にいつもいる小さなチェリー。陽気なチェリーは、マイナス思考で愚痴ってばかりのサユリの側にいつもいてくれる大切な存在。古いアパートの屋根裏部屋に引きこもるサユリを外の世界へと導いてくれる。外の世界で迷いそうになるサユリを大丈夫と優しく励ましてくれる。『流星シネマ』のサイドストーリー。今回は鯨オーケストラの元オーボエ奏者・サユリ目線で『流星シネマ』やその続きの物語が楽しめる。お馴染みの彼らにもまた再会できて嬉しい一冊。吉田ワールドには今回も胸をきゅっと掴まれ、固くなった気持ちもほぐされ癒された。2021/08/23
里愛乍
91
静かにゆっくり、言葉の海を揺蕩うように文字を追う。衝撃の展開もどんでん返しも要らない、ただただ気持ちよいこの時間。吉田篤弘さんの本は自分と相性がいいのか手にするだけで、もっと言えば背表紙並べて眺めてるだけでも癒される。ひとりの時間を楽しみたい「思い」の時間で過ごせるからかな。「簡単に言葉に置き換えられるようなことは、もう信じられないの」ミユキさんのこの言葉にはっとさせられた。うまく言葉に出来ない思いは、きっと気のせいでも勘違いでもない何かがある。それを優先するのも悪くない。自分を生きたい。2021/12/20
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