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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
風眠
129
子どもが駆けてゆく足音。カラスの鳴き声。冷蔵庫を開けて、さて夕食は何を食べようかと考える。灯りを点けようかと少し迷いながら。何となく現実の世界から切り離されたような夕方の台所。ラジオのスイッチを入れる。静かに話す女の人の声が、耳に届く。ここはどこだろう?なんだか夢の欠片のようにふわふわとして、現実の世界からほんの少し謎めいた世界へと誘われるよう。食べものと、それにまつわるエトセトラ。郷愁も妄執も、迷いも憂いも、食べたものとともに思い出となっていく。哲学のような、おとぎ話のような、小さな12篇の物語たち。2016/08/14
nico🐬波待ち中
119
夕方にひとり、ラジオを聴く。家の台所で。静かな声の女性アナウンサーのお喋りを、食事をとりながら心穏やかに聴く。食べるものは聴き手により様々。12編のショートストーリーが、時に登場人物を交差させながら進んでいく。『さくらと海苔巻き』『油揚げと架空旅行』『明日、世界が終わるとしたら』が特に好き。「明日から無人島へ行くことになったら、今夜何を食べるか」ラジオから聴こえてきた質問に私も思いを巡らせる。さて何にしよう…美味しいと評判の〈丸山レストラン〉の紙カツなんていいかもね。もちろんカジワラ印の黒ソースをかけて。2020/01/19
あつひめ
82
ラジオの音がするだけで孤独じゃなくなったり、音の世界に心が迷い込んだり。テレビのようにガチャガチャこちらの世界に入り込んで来ない…ラジオが私は好きだし、この物語にもそんな空気が流れているように感じた。つかみどころがない、不思議な世界を垣間見るような吉田さんの世界も好き。読み終えたあと、しばらく静かにぼんやりしていたくなる。ひとりで過ごすのも悪くないと改めて思える一冊。2016/10/24
モルク
80
取り立てて大きな事柄が起こることもないが、じんわりくる短編集。ラジオから流れてくる女性パーソナリティーの静かな声。家事をしているとき、手作業をするときこういうのって邪魔にならずほっとできる。この声で少しずつ繋がっている感じのお話。「さくらと海苔巻き」「明日、世界が終わるとしたら」「マリオ⚫コーヒー年代記」「十時軒のアリス」が好き。吉田さんの作品はときどき無性に読みたくなる、疲れているとき、イライラしているときに読むとなぜか心が和む。2017/10/29
けんとまん1007
76
いろんなモチーフがあって、関連性もある短編集。どこか懐かしいテイストが醸し出されていて、ほっとする。もちろん、それだけなく、それぞれのオチが吉田ワールド。タイトルにあるとおり、ラジオも重要なモチーフで、自分もラジオが好きだ。音声だけというのが、却っていろいろ想像できるし、本当のものが伝わってくる。それと同じくらい、食べ物も重要な位置を占めている。そんなのがあったら、食べてみたいなあ~と思うのがいくつも。ラジオが流れる古い食堂で食べたら、飽きることがないよなあ~。2017/01/03