出版社内容情報
「解離」を愛着理論からとらえなおし,右脳,ディープラーニングの理解から新しいアイデアを提示。精神分析の前提に一石を投じる。(序文より抜粋)
精神分析の未来形
妙木 浩之
若い時から良く知っているが,岡野憲一郎は「書く人」である。彼はいつも考えていることを書きながら歩いている。その思索は,書くことによって再帰的に着想になり,オリジナルな思考がその循環のなかから生み出される。本書は,そのオリジナルな思索を,文字通り,精神分析とは何かという問いに,改めて組みなおそうとした本だ。…
おそらく日本を含めて,精神分析のパラダイムに地殻変動が起きていることは間違いない。それを「静かな革命」と呼ぼうと「分析新世代」と呼ぼうと,パラダイムの変更がはっきりして私たちの目に見えるのは,まだ先のことだろう。これからの精神分析を考える上で,期待や願望を含めて,重要な論点を列挙するなら,
??精神分析の理論の全体を,既存の対象関係論のパラダイムをもとに,組み替えていく。結果として,
??精神分析が他の諸科学との接点のなかで,オリジナルな思考を展開する。
??新しい精神科学の知見に合わせて理論の更新と修正を繰り返していく,ということが求められている。
これら後半の二つが,本書の主題であり,岡野が問い直していることだ。もちろん,これらの行為を現代ではEvidence-basedな世界との接点を求めることで行っていく必要もあるだろうが,そもそも,他の隣接科学への接点という着想があるかないかは大きい。例えば,かつてフランクフルト学派,つまり批判理論は,マルクス主義と精神分析を車輪の両軸のようにして発展した社会学だったが,それだけ精神分析の着想が担保されていた時代があるのだ。現在,精神分析理論が他の学問に影響する回路は,「臨床」という名前で学問が閉ざされ始めてから,すっかり失われてしまったように見える。精神分析は独自な方法論であることは確かだが,理論は汎用性が必要であり,そのためもう一度,他の諸科学にインパクトのある理論に組みなおしていく,問い直していく必要がある。岡野の仕事は,そうした着想に満ちている。
だから本書で登場する,これまでの前提を「問い直す」という各章は,精神分析臨床そのものを脱構築しようとする彼の意思表明だ。そして最後に脳科学,さらには現代のAIの深層学習に触れながら,無意識を再定式化しようとするところはなかなかスリリングである。解釈って何か,終結って何か,といった技法への問い直しのみならず,フロイトがジャネとの関係で踏み込まなかった「解離」を愛着理論の視点からとらえなおして,右脳の機能的な理解から,さらには深層学習の理解から,新しいアイデアを提示しようとしている。私たちが当然の前提としてしまっている精神分析のジャーゴンやドグマに対する異議申し立て。「書く人」岡野憲一郎の思索は,精神分析の未来を考える上で,重要な一石を投じている。
できる限り,大きな波紋が拡がることを願っている。
序 文──精神分析の未来形
まえがき
第?部 精神分析理論を問い直す
第1章 精神分析の純粋主義を問い直す
第2章 解釈中心主義を問い直す(1)─QOL向上の手段としての解釈
第3章 解釈中心主義を問い直す(2)─共同注視の延長としての解釈
第4章 転移解釈の特権的地位を問い直す
第5章 「匿名性の原則」を問い直す
第6章 無意識を問い直す─自己心理学の立場から
第7章 攻撃性を問い直す
第8章 社交恐怖への精神分析的アプローチを問い直す
第9章 治療の終結について問い直す─「自然消滅」としての終結
第?部 トラウマと解離からみた精神分析
第10章 トラウマと精神分析(1)
第11章 トラウマと精神分析(2)
第12章 解離の治療(1)
第13章 解離の治療(2)
第14章 境界性パーソナリティ障害を分析的に理解する
第15章 解離の病理としての境界性パーソナリティ障害
第?部 未来志向の精神分析
第16章 治療的柔構造の発展形─精神療法の「強度」のスペクトラム
第17章 死と精神分析
第18章 分析家として認知療法と対話する
第19章 脳からみえる「新無意識」
第20章 精神分析をどのように学び,学びほぐしたか?
参考文献
あとがき
索 引
岡野憲一郎[オカノケンイチロウ]
著・文・その他
目次
第1部 精神分析理論を問い直す(精神分析の純粋主義を問い直す;解釈中心主義を問い直す(1)―QOL向上の手段としての解釈
解釈中心主義を問い直す(2)―共同注視の延長としての解釈
転移解釈の特権的地位を問い直す
「匿名性の原則」を問い直す
無意識を問い直す―自己心理学の立場から
攻撃性を問い直す
社交恐怖への精神分析的アプローチを問い直す
治療の終結について問い直す―「自然消滅」としての終結)
第2部 トラウマと解離からみた精神分析(トラウマと精神分析;解離の治療;境界性パーソナリティ障害を分析的に理解する;乖離の病理としての境界性パーソナリティ障害)
第3部 未来志向の精神分析(治療的柔構造の発展形―精神療法の「強度」のスペクトラム;死と精神分析;分析家として認知療法と対話する;脳からみえる「新無意識」;精神分析をどのように学び、学びほぐしたか?)
著者等紹介
岡野憲一郎[オカノケンイチロウ]
1982年東京大学医学部卒業、医学博士。1982~85年東京大学精神科病棟および外来部門にて研修。1986年パリ、ネッケル病院にフランス政府給費留学生として研修。1987年渡米、1989~93年オクラホマ大学精神科レジデント、メニンガー・クリニック精神科レジデント。1994年ショウニー郡精神衛生センター医長(トピーカ)、カンザスシティー精神分析協会員。2004年4月に帰国、国際医療福祉大学教授を経て、現職、京都大学大学院教育学研究科臨床心理実践学講座教授。米国精神科専門認定医、国際精神分析協会、米国及び日本精神分析協会正会員、臨床心理士(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。