内容説明
19世紀末のアメリカ上流社会に潜む空虚、不毛、悪意等の破滅的世界を描く名作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まふ
112
20世紀初頭のニューヨーク社交界での栄光と陥落の女性の物語。主人公リリー・バートは単身社交界にデビューし、何とか乗り切ろうとするが財務的バックのないままボロボロになって女工の身分にまで陥ちる。周囲の金持連中は手を差し伸べることなく冷静に彼女の一人芝居を眺めているだけ…。社交界での栄光が輝かしかったがゆえに、最後の場面では懸命に生きながら報われることもなく死に臨んだリリーに胸が熱くなった。途中まではジェイン・オースティン風のでき損ないの世界と思っていたが、最後でこの作品の価値を確認できた。G1000。2024/02/07
NAO
61
上流階級の人々が集う邸宅、娯楽場、ホテルといった「歓楽の家」を巡りながら下降していく女性を描いた物語。富裕層の生まれだが自分一人でも楽に生きていけるほどではなく、18才で華々しく社交界にデビューしたものの未だに結婚できていない主人公リリーが29才の誕生日を迎えた時点からの2年間が描かれているのだが、最初の舞台は「歓楽の家」の象徴ともいえる場所で、その薄汚く俗物的な場所でリリーの将来が暗示されている。2023/04/13
星落秋風五丈原
26
【ガーディアン必読1000冊】NY郊外、ローレンス・セルデンは29歳のリリー・バートを見かける。18歳で華々しく社交界にデビューしたリリーが、夜更かしとダンスに明け暮れた11年を経て29歳の誕生日を迎えた時点から物語は始まる。父の死後母とリリーは放浪生活を送る。母親はリリーの美しさに全てを賭けていた。自由に生きるには金が要る。金を得るためには限られた方法しかない。外面の豊かさを得るためには内面の豊かさを捨てなければならず、文明は必ずしも人を幸福にしない。自身も社交界にいたウォートンの痛烈な社会への皮肉。2022/11/19
きりぱい
9
よかった。29歳になったリリーは、安楽な暮らしを続けるためには結婚するしかないという正念場を迎え、冴えわたる美しさとは反対に、人生はどんどん落ちぶれていってしまう。ニューヨーク社交界で織りなす華やかさと悪意の人間模様は、たっぷり読ませるのに、その実何も起こらない小説の類で、独身女性にはモラルが強いられ、どのみち女性は結婚するしか道がない社会性がオースティン作品を思わせ、実に読んでいて面白い。賢くて誇り高いだけに、「環境の価値観に従うことしか出来なかった犠牲者」たるリリーが哀れで泣けてくる。2012/02/17
Mana
4
イーディス・ウォートン初期の代表作。アメリカ上流階級が舞台。裕福な叔母に引き取られた孤児のリリーは、18歳で社交界デビューしてから美貌でもてはやされ結婚の機会もいくつもあったのに、機会を逃し続けて29歳になる。叔母はリリーが望む「浮ついた生活」にはお金を出してはくれず、裕福な友人たちからの招待も減りつつある現状では、 リリーの選択肢は裕福な夫を捕まえるか、浮ついた生活を諦めるか。でも理性では分かっていても感情がどちらの道も選べなくする。2018/11/12