内容説明
“戦争50年”を経て“平和70年”の今、人はねじれたナショナリズムの波に呑まれ、曲がりくねった道を歩く。かつての過ちは記憶の外に消されていき、あとに残るのは「人間」のみ。その人間に必要なはずの道徳は、そして人道はどこへいったのか。中国人作家が歴史・文化・人物・平和憲法をとおして、日中の絆、そして日本を見つめなおす。他者への「敬重」と「惜別」の覚悟をもって語られる日本論。
目次
第1章 はるかなる東ウジュムチン
第2章 三笠公園
第3章 ナガサキ・ノート
第4章 赤軍の娘
第5章 四十七士
第6章 解説・信康
第7章 文学の「惜別」
第8章 「アジア」の主義
第9章 解剖の刃を己に
著者等紹介
張承志[チョウショウシ]
1948年北京生まれ。作家。北京作家協会副主席。1983年と1990年、国際交流基金フェロー、財団法人東洋文庫外国人研究員として来日。中国社会科学院助理研究員、1993年には愛知大学法学部助教授を歴任
梅村坦[ウメムラヒロシ]
1946年東京都生まれ。中央大学総合政策学部教授、公益財団法人東洋文庫研究員。専門は東洋史学・中央ユーラシア史・ウイグル民族誌史。ユネスコ東アジア文化研究センター研究員、立正大学教養部教授などを歴任(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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崩紫サロメ
14
中国の神秘主義ムスリム(ジャフリーヤ派)で、若い頃は紅衛兵の名付け親として「革命」に関わった張承志の日本に関するエッセイ。近代日本の辿ってきた暴走を見つめ直すことが、現在尊大な大国となりつつある中国にとって反面教師となるのではないか、と。しかし憲法九条を死守すべきものとしながらも日本赤軍の行いに関しては「彼らの勇気と実践」に感動を隠さないなど、矛盾をはらんだような面もやはり張承志なのだろうか、などと。2020/07/10
フンフン
5
勧善懲悪歴史観に貫かれた著書である。ヘーゲルは「シナの宗教は道徳的宗教と名づけらるべきものである」(『宗教哲学』)と言ったが、孔子が編集したとされる『春秋』以来、東洋では歴史は善悪の観点から書かれることになっているのだから仕方がない。孔子は、歴史は悪人に筆誅を加えるために書くのだとまで言っている。それで、何が正義かというと攘夷である。白人勢力を駆逐してアジアの尊厳を取り戻すのが正義なのである。「脱亜入欧」を唱えた福沢諭吉などは大悪人として描かれる。2023/12/16