ドナ・ウィリアムズの自閉症の豊かな世界

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  • サイズ A5判/ページ数 469p/高さ 21cm
  • 商品コード 9784750328874
  • NDC分類 493.937
  • Cコード C0036

出版社内容情報

ベストセラー『自閉症だったわたしへ』の著書による本邦初の自閉症論。著者自身の体験と相談員としての豊富な臨床経験をもとに、自閉症スペクトラムの多様な症状への全人的アプローチを提示するとともに、自閉症の人たちが安心して暮らせる社会のあり方を語る。


 献辞

第1部 オリエンテーション

はじめに
 外側から見た発達の困難
 自閉症スペクトラムの症状とは何か
 自閉症のステレオタイプの問題点
 家族と自閉症――俯瞰図
 自閉症という名の「フルーツサラダ」
 社会の新しい姿勢

第2部 深淵へ

第1章 燃料系と電気系の問題――健康と自閉症
 燃料系
 電気系
 問題を見きわめ、真の原因を見つける
 情報処理の問題がある人への支援

第2章 世界を理解する方法の違い――感性のシステムと解釈のシステム
 脳はひとつかふたつか
 感性と解釈
 「感性主導型」と「解釈主導型」と特定の行動問題

第3章 オーバーロードの問題――単一回路の情報処理と情報処理の遅れ
 単一回路型の情報処理
 情報処理の遅れ
 単一回路型と特定の行動問題

第4章 少し変わった世界体験――感覚・認知の問題
 感覚の高揚
 感覚・認知の問題と環境
 感覚・認知の問題と特定の障害や疾患
 感覚・認知の問題の影響
 感覚・認知の問題と特定の行動問題

第5章 身体のコントロールの喪失――衝動抑制の問題
 チックと強迫行為
 衝動抑制の障害の影響
 強迫性障害(OCD)と特定の行動問題

第6章 奇妙な感覚空間――気分の調整の問題
 気分障害――小児期うつ病と双極性障害
 小児期の気分障害の影響
 気分障害の治療
 気分障害と特定の行動問題

第7章 見えない檻――不安の問題
 一次的な不安障害
 二次的な不安状態
 不安障害の性格
 不安障害の影響
 不安障害の治療
 不安と特定の行動問題

第8章 分かちがたい仲――依存の問題
 依存の学習と共依存
 依存の学習と共依存の影響
 依存と特定の行動問題

第9章 育て方か? 遺伝か?――境界線の問題
 境界線の問題とは何か
 境界線の問題の影響
 境界線の問題への対処
 境界線の問題と特定の行動問題

第10章 視点の問題――トラウマ・ネグレクト・虐待・悲嘆
 問題の定義
 トラウマ・ネグレクト・虐待・悲嘆の影響
 トラウマ・ネグレクト・虐待・悲嘆の問題を抱えた人への支援
 トラウマ・ネグレクト・虐待・悲嘆と特定の行動問題

第11章 私は誰か? どちらの味方なのか?――アイデンティティの問題
 アイデンティティとは何か
 「私」と「私でないもの」
 愛着
 理性とアイデンティティ
 体とアイデンティティ
 コミュニケーションとアイデンティティ
 依存とアイデンティティ
 発見型学習とアイデンティティ
 多様性とアイデンティティ
 人格障害とアイデンティティ
 性とアイデンティティ
 障害に関する社会政策とアイデンティティ
 禅とアイデンティティ
 アイデンティティの問題の影響
 アイデンティティの問題がある人への支援
 アイデンティティの問題と特定の行動問題

第3部 余波

第12章 フルーツサラダモデル――3種類のクラスター
 自閉症とアスペルガー症候群の線引き――「フルーツサラダモデル」を前提に
 フルーツサラダのとらえにくい性格
 基本的なクラスターの種類
 専門家はどうすれば、各クラスターのニーズに応えられるか
 システムを一新する――改革に強い抵抗がある理由
 自閉症の「スーパーマーケット」――多面的アプローチとはどんなものか
 プログラム、サービスを考案できるのは、どんな人か
 「フルーツサラダ」の材料を確認するのは、経済的にも重要なこと
 「治療」と「治癒」の政治学――「正常さ」をめぐる論争
 結論

 付録
 巻末資料1 支援を提供している専門家・施設・サービス
 巻末資料2 自閉症クラスター・チェックリスト
 巻末資料3 チェックリストに基づく相談先のリスト

 参考文献
 索引

 訳者あとがき


訳者あとがき

 本書は、2006年に出版されたドナ・ウィリアムズの著書、“The Jumbled Jigsaw: An Insider’s Approach to the Treatment of Autistic Spectrum‘Fruit Salads’”の全訳である。いわゆる高機能自閉症を持つ著者は、1963年、オーストラリアの貧しい労働者階級の家庭に生まれた。家族は父母に兄と弟。幼少時は祖父母も近くに暮らし、ドナに深い愛情を注いでくれたらしい。けれど祖父母は他界し、両親の仲も悪化していく。唯一の味方だった父親が家を出ていった後、少女時代のドナは母親から虐待を受ける。母親が女の子を欲しがっていなかったうえ、ドナ自身が「変わった子」であったことも災いした。15歳で家出した彼女は、普通と違っているという理由で学校にも社会にも溶け込めず、周囲から過酷な仕打ちを受け続ける。そして25歳になってようやく、「自閉症」と診断されるのだ。こうした不幸な子ども時代、周囲の無理解と生活苦に耐えた思春期を経て、自分の障害と向き合った著者が大学教育を修了し、ひとりの女性として自立するまでの心の遍歴は、内側から見た自閉症を綴った手記『自閉症だったわたしへ』(新潮社)に痛々しいまでに克明に描かれている。
 この本は、そうした半生記と少し趣をことにする。本書で著者は、自分の経験を随所に織り込みつつも、独自の方法論で自閉症を理論的・客観的に分析している。といっても、彼女は医師や臨床心理士などのいわゆる専門家ではない。自閉症の人々の相談員としての長年のカウンセリング経験に基づき、自閉症を単一の症状ではなくさまざまな症状や問題の複合体(クラスター)ととらえ、「身体的な健康の問題」「情報処理の問題」「感覚認知の問題」「不安障害」「強迫性障害」「衝動抑制の問題」「気分障害」「アイデンティティの問題」「環境の問題」などの根底的な要因について、各章で詳述している。また著者は本書で、「フルーツサラダ」モデルという独自の概念を提示している。このモデルによれば、使う食材によってサラダの味が変わるように、本人が抱える問題の種類によって自閉症症状の現れ方も異なるのだという。したがって画一的治療ではなく、それぞれのクラスターの内容に応じた治療を行うべきだされる。根本原因に応じた専門家チームによる全人的治療が必要であり、「教師や一般医、小児科医、臨床心理士、神経科医、消化器科専門医、言語療法士、親だけではなく」「既成概念にとらわれず、自然療法医、眼科医、専門的ソーシャルワーカー、作業療法士、カイロプラクター、催眠療法士」も治療に関わるべきだというのだ。従来の医療だけではなく、オルターナティブな医療も視野に入れているのは、著者自身、長い年月、自閉症のさまざまな症状に苦しみながら、従来の枠組みにとらわれず広く有効な治療を求めてきたことが背景にあるのかもしれない。
 (…中略…)
 現在ドナ・ウィリアムズは、本書にも登場する最愛のパートナー、夫のクリスとともにオーストラリアで暮らしている。自閉症の相談員を務めつつ世界各地で講演を行い、さらには絵画、音楽、彫刻、詩など幅広い分野で芸術的才能を発揮しているという(ドナ個人のウェブサイトhttp://www.donnawilliams.net/で、彼女の幻想的な絵画作品や透明感のある歌声に触れることができる)。これまでに本書を含め9冊の著作を発表し、うち本書を含む4冊は自閉症に関する理論書である。著者自身も今回の邦訳刊行を非常に喜んでいるそうで、明石書店編集部からの10の質問に著者がブログ上で答えるという形で、インタビューに応じてくれている。本書執筆の背景などを本人が語っており、興味を抱かれた方はぜひご参照いただきたい(http://blog.donnawilliams.net/2008/11/06/the-jumbled-jigsaw-is-published-in-japanese/ 明石書店のホームページには日本語訳を掲載している)。
 幼少時から母親に虐げられ、周囲から孤立し、とろい子、おかしな子といわれ続けた少女が、これほど輝かしい充実した人生を自分の力で切り開けるなどと、いったい誰が想像しえただろうか。本書が自閉症の人々を力づけ、その治療、教育、支援に携わる人々に理解と希望をもたらすものとなることを願ってやまない。
 (…後略…)

内容説明

“フルーツサラダ”“存在の音楽”“曝露不安”“感性型情報処理”…。自閉症スペクトラムの世界を読み解く数々のキーワードと、多様な症状への具体的対応策。補完医療、自然療法も含めた全人的アプローチへの誘い。自閉症やアスペルガー症候群の人たち、その支援者、研究者、必読の書。

目次

第1部 オリエンテーション(はじめに)
第2部 深淵へ(燃料系と電気系の問題―健康と自閉症;世界を理解する方法の違い―感性のシステムと解釈のシステム ほか)
第3部 余波(フルーツサラダモデル―3種類のクラスター)
付録(支援を提供している専門家・施設・サービス;自閉症クラスター・チェックリスト ほか)

著者等紹介

ウィリアムズ,ドナ[ウィリアムズ,ドナ][Williams,Donna]
1963年、オーストラリアに生まれ、都市部の労働者階級の家庭で育った。子どもの頃は「耳が聞こえない」「情緒不安定」「頭がおかしい」「とろい」と周囲から言われ、1960年代以前に生まれた自閉症のある多くの人々と同様、正式に自閉症と診断されたのは成人後だった。執筆活動や作曲、絵画、彫刻に取り組むかたわら、世界各地の自閉症関係の講演やワークショップでも活躍中。13年間の英国滞在の後、現在は夫と共にオーストラリアに在住

門脇陽子[カドワキヨウコ]
翻訳者。津田塾大学学芸学部国際関係学科卒業

森田由美[モリタユミ]
翻訳者。京都大学法学部卒業(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。