出版社内容情報
国籍による東京都管理職選考試験受験拒否をめぐる裁判の記録。労働運動の歴史、「国民主権」という概念、諸外国との制度比較など、多角的に本裁判を考察し、最高裁判決の意味を問う。本訴訟の代理人も務められ、2005年に逝去された金敬得氏の寄稿も収録。
はじめに
第一章
「国籍制限」撤廃の闘い
――変転する“原理”――(水野精之)
第二章
個をつかむ(鄭香均)
第三章
誰にとって哀れな国なのか
「国民主権」の正体と二つの民主主義(富永さとる)
第四章
在日韓国・朝鮮人と地方公務員管理職(金敬得)
◎橋本大二郎 高知県知事インタビュー
第五章
外国人公務就任権の国際比較と特別永住者のNational Originにもとづく差別(近藤敦)
第六章
大日本帝国憲法と日本国憲法のあいだ
――歴史から見た鄭香均氏の訴訟――(伊藤晃)
第七章
鄭香均訴訟大法廷判決について
――あとがきにかえて――(新美隆)
はじめに
本書は、東京都の保健師である韓国籍の在日二世・鄭香均(チョンヒャンギュン)が、一九九四年・九五年に管理職試験の受験を「当然の法理」を理由として拒否されたことについて、その違法性をただすべく提起した裁判についての記録です。
第一章では「当然の法理」が戦後の政治的・社会的環境の変化と運動の力によって変転を余儀なくされてきた歴史が、運動のただ中からのリアルな視点で総括されます。第二章では、鄭本人が、裁判を決意するに至った在日二世としての個人史と想い、当然の法理と裁判とを通して見えてきたことを述べます。第三章では最高裁判決(以下、「判決」)の文言を通して見えてくる、すべての住民にとってのこの国の哀れなあり方が、「国民主権」、人権と実定法万能主義、民主主義、社会的排除、法の支配と正義といった批判視点から描き出されます。第四章では、本裁判の争点の柱である在日韓国・朝鮮人の歴史性という視座から、国籍差別の是正の到達点としての地方公務員管理職の門戸開放の意義が論じられます。その次に、もう一つの柱である地方自治体の職務と国籍の関係について、都道府県のなかで初めて原則開放した高知県の橋本大二郎知事へのインタビューを掲載します。第五章では、国際比較の観点から判決の問題点が指摘され、National Originによる差別を禁止する国際条約に照らして原告に対する受験拒否は違憲であることが立論されます。第六章では、日本近代の歴史の視野から、判決で人権を国家に握られていると宣言されるに至った国民が、外国人とともに自分たち自身の人権を自らの力で作り出すために克服すべき、戦前戦後一貫した憲法運用の秘密の原理、国家と国民との気やすい関係が摘出されます。第七章では、判決の「憲法の想定外」なる論法が戦争損害についての判例の流れを受けたものであり、国籍差別を禁ずる労基法三条と憲法の解釈を任務放棄するためのものであることが指摘されます。
末尾には裁判資料を掲載しました。
なお、第四章を執筆してくださった金敬得(キムキョンドク)弁護士は二〇〇五年一二月二八日、胃ガンのためご逝去されました。五六歳の若すぎる死でした。ガンと抗ガン剤による副作用の苦しみ、そして死の自覚のただ中で、本書については「総決算として書きますよ」と執筆依頼を快諾してくださいました。金弁護士がいつも語っておられた、個人の人間としての権利や自由、尊厳が尊重される社会体制の実現に、残された者の責務として微力を尽くしたいと考えています。
本書が在日韓国・朝鮮人、在日外国人の人権問題のみならず、この日本のあり方を考える上での一助として役立てば、こんなに嬉しいことはありません。
最後になりますが、編者・執筆者を代表して、多忙な公務のなかで快くインタビューに応じてくださった橋本知事にこの場を借りてお礼を申し上げます。そして、裁判を支えてくださった多くの方々に心から感謝いたします。
鄭香均・富永さとる
目次
第1章 「国籍制限」撤廃の闘い―変転する“原理”
第2章 個をつかむ
第3章 誰にとって哀れな国なのか―「国民主権」の正体と二つの民主主義
第4章 在日韓国・朝鮮人と地方公務員管理職
第5章 外国人公務就任権の国際比較と特別永住者のNational Originにもとづく差別
第6章 大日本帝国憲法と日本国憲法のあいだ―歴史から見た鄭香均氏の訴訟
第7章 鄭香均訴訟大法廷判決について―あとがきにかえて
本裁判関連資料
著者等紹介
鄭香均[チョンヒャンギュン]
韓国人の父と日本人の母を両親に1950年岩手県で出生。看護師として川崎市で同胞が経営するクリニック等を経て、1988年東京都の外国籍保健師第1号として保健所勤務となる。しかし、1994年日本国籍でないことを理由に管理職試験の受験を拒否され、東京都を提訴。1996年東京地裁判決で請求を棄却されるが、1997年高裁判決で逆転勝訴。しかし東京都がこれを不服として上告し、2005年1月の最高裁大法廷で訴えが退けられる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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