出版社内容情報
従来の、偏見や差別意識に関する理論を批判する立場から、「三者関係モデル」「他者の客体化」「われわれ」といった新たな概念を導入することで、「差別はなぜ起こるのか」「どうしたら差別はなくなるのか」という問いに正面から答える実践的な理論書。
はじめに
1 差別論について
2 差別という言葉をめぐる混乱
3 本書の構成と方針
第1部 理論編
第1章 差別の定義
1 社会的カテゴリーと差別
2 差異モデルと関係モデル
3 不当性の論理
4 差別論と人権論
5 排除による差別行為の定義
第2章 排除の理論
1 共同行為としての排除
2 他者化、同化、見下し
3 三者関係モデル
4 差別行為の類型化
5 差別行為の連鎖
6 差別行為の認識可能性――認識のズレとその解決
7 批判と差別
補 論
1 スケープゴーティング論について
2「われわれ」カテゴリーについて
第3章 偏見理論批判
1 偏見理論とは何か
2 差別は心の問題か
3 カテゴリー化とステレオタイプ
4 二者関係のモデルと三者関係のモデル
5 偏見理論の問題点
第4章 差別論の射程と解放の戦略
1 差別論の射程
2 差別の無効化という戦略
3 偏見理論からの脱却
4 行為の対象化
5 差別行為の「ワクチン」化
はじめに
1 差別論について
本書は、「差別論」に関する本です。
「差別論」というタイトルから、差別問題に関することを論じているのだということは、想像できるでしょうが、この言葉には、もう少し限定的な意味が込められています。まず最初にこのことを説明し、本書の立場を明らかにしたいと思います。
世の中には多くの差別問題があり、それぞれに固有の問題を抱えています。そして、それぞれの差別問題に固有の状況を明らかにし、その原因を突き止め、解決の方法を見出すために多くの研究がなされてきました。
これらの個別の差別問題についての研究は、互いに影響を与え合いながらも独自に発展し、それぞれの理論的な枠組みを作ってきました。たとえば、性差別についての理論(フェミニズム)の中心的な概念のひとつに「家父長制」というものがありますが、これはあくまでも性差別についての理論であり、そのままほかの差別問題に流用できるものではありません。
しかし一方では、さまざまな差別問題は「差別問題」という言葉で表される限り、何らかの共通性を持っているはずです。それではその共通性はどこにあるのでしょうか。
大雑把にいえば、さまざまなるのか」という問いに正面から答えようとするものです。
しかし、本書が志向する理論は「実践的な理論」です。そういう意味では「差別はなぜ起こるのか」という問いより「どうすればなくなるのか」という問いを優先させようとしています。「なぜ起こるのか」という問題は、「どうすればなくなるのか」を考えるにあたって必要な範囲でわかればいいのだという割り切り方をしています。
実際に本書を読み進めると、「この点についてはまだよくわかっていないからパスして、先に進みましょう。それでもとりあえずなんとかなりますよ」といった感じで、わからないところをそのままにしてしまっている箇所がいくつか出てくると思います。そのような扱いは、本書を「実践的理論書」として構想しているためなのだとご理解いただきたいと思います。
本書は、特に専門的知識や差別問題の現状などについての詳しい認識を持っていない方にも読んでいただけるように、なるべく平易な文章と、身近な事例を使うように心がけました(それでも難しいところはたくさんあるとは思いますが)。専門的な議論は注や補論として本文とは分けましたので、より詳しい説明はそれらを読んでいただきたいと思います。
目次
第1部 理論編(差別の定義;排除の理論;偏見理論批判;差別論の射程と解放の戦略)
第2部 事例編(小説のなかの差別表現―筒井康隆「無人警察」;あいまいな表現としての差別語と「ワクチン」―石原都知事「三国人」発言;性別役割分業の非対称性―林道義『父性の復権』『母性の復権』)
著者等紹介
佐藤裕[サトウユタカ]
1961年、大阪府生まれ。富山大学人文学部助教授。社会学専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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