出版社内容情報
いまオセアニア先住民の問題は「国内政策」から国際的な政治的テーマとして扱われる時代となった。国家の象徴を先住民に求める発想と、オセアニアらしさを多文化性とする発想とを融合させる方向が顕在化しつつある。オセアニア各国のいまを詳細に事例分析する。
序 文 先住少数民族について
第1部 オーストラリア・ニュージーランド
解 説(前川啓治)
〈オーストラリア〉
1 アボリジニ◇アボリジナルと都市――地方都市とメトロポリタンの人びと(松山利夫)
2 アボリジニ◇地方に暮らすアボリジニ(上橋菜穂子)
3 アボリジニ◇「ファースト・ピープルズ」をめぐるパラドックス――オーストラリア辺境のアボリジニの過去と現在(窪田幸子)
4 トレス海峡諸島民◇生成する、生成される先住の人びと(松本博之)
5 オーストラリア先住民◇差異化の意味するところ――多文化主義と先住民(鈴木清史)
〈ニュージーランド〉
6 マオリ◇大地のマナの行方――マオリの土地権問題(内藤暁子)
7 マオリ◇マオリ社会の都市化と都市マオリ集団の形成(深山直子)
8 マオリ◇「マオリ個別の知」の発現と伝達――知識社会学的視点から(伊藤泰信)
9 マオリ◇先住民マオリと移住民ポリネシア人(棚橋 訓)
第2部 オセアニア島嶼部
解 説(棚橋 訓)
〈ニューカレドニア〉
10 カナク◇「ピープル」としてのカナク・アイデンティティ復権運動(江戸淳子)
〈タヒチ〉
11 マオヒ
刊行にあたって
一九九一年のソ連邦の崩壊により、米ソの冷戦構造は終焉を迎え、折から目覚しい発展を遂げてきたIT(情報技術)の時代が、政治的平和とともに華やかに幕開けしたかにみえた。
しかし他方で、地球の自然、人間の環境は恐るべき勢いで荒廃してきている。空気や水の汚染、地球温暖化による氷河・氷山の溶解と海面水位の上昇、森林の破壊による砂漠化の広がり、エネルギー資源の枯渇、人口の増大と食糧不足、そして貴重な動植物の種の絶滅、狂牛病の発生、HIVやSARSのような新型ウイルスの出現も、人類による自然の秩序破壊と無関係ではないと思われる。
こうした人類文化の変化・発展と地球環境の荒廃の中で、そのマイナス面のしわ寄せを最も苛酷に蒙っているのが一般的に当該国民国家の中で少数民族と呼ばれている人びと、なかでも先住少数民族と呼ばれる多くの孤立的集団であろう。
先住少数民族が他の少数民族ともっとも異なっている点は、彼らが自らの自由な意思や合意の確認がないままに当該国家に組み込まれた人びとだということである。したがって、先住少数民族の場合、「民族自決権」が留保されていると考えることができる。先住少数民族に民族自決
目次
第1部 オーストラリア・ニュージーランド(アボリジニ(アボリジナルと都市―地方都市とメトロポリタンの人びと;地方に暮らすアボリジニ;「ファースト・ピープルズ」をめぐるパラドックス―オーストラリア辺境のアボリジニの過去と現在)
トレス海峡諸島民―生成する、生成される先住の人びと ほか)
第2部 オセアニア島嶼部(カナク―「ピープル」としてのカナク・アイデンティティ復権運動;マオヒ/タヒチアン―民族のイメージと実態;カナカ・マオリ/ハワイアン―「先住民」カテゴリーの変遷を軸に;チャモロ―チャモロはミクロネシア人か、アメリカ人か ほか)