出版社内容情報
労働時間はほとんど同じなのに賃金は常勤の3分の1以下の非常勤職員。本来、人権、平等を追求すべき自治体が制度的に強いてきた間接差別の実態を裁判に訴え、和解に至った訴訟の全体像を、労働活動家、研究者、弁護士、自治体職員の声を交え浮き彫りにする。
はじめに――なぜ裁判を起こしたか
1章 提訴の内容
1――非常勤職員とは
女性が九割を占める働き方/「勤務形態」って何?/非常勤は女性自身の自主的選択?/女性率のトリック/直接性差別+間接性差別/特別職非常勤職員
2――仕事の実態
一 仕事の同一性――常勤と非常勤
基幹的・恒常的業務/非常勤は補助的労働?/常勤の異動をつなぐため?
二 専門性をめぐって
女性問題に関する専門性/学習にかかわる専門性/異動がない 勤続が長い 経験が蓄積される/短時間勤務ではできないしごと/振替とサービス残業/「本務」と「非常勤」の拘束時間
三 専務的非常勤という考え方
3――雇用と労働条件
一 不安定雇用と劣悪な労働条件
休暇制度等の未整備
二 一時金・退職金問題
手当/一時金・退職金
三 賃金問題
「パラサイト(寄生)賃金」と複合就労/遅配/交渉の経過/経験加算と専門性
4――非常勤賃金はどうして違法なのか!【弁護団】
一 非常勤職員の賃金とは何か――女性を自立させないパラサイト的低賃金
二 賃金格差は社会的身分差別――憲法一四条および労働基準法三条違反
三 本件賃金格差は性差田大学)
早川征一郎さん(法政大学)
柳生賢一さん(元自治労組織局)
2章 裁判を終えて
1――[座談会]公務パート裁判にかかわって【支援する会】
自己紹介/裁判をふり返って/非正規職員の仕事と家族/裁判の影響/和解についてどう思うか/「支援する会」について/今後の見通し
2――学習会「女性労働最前線」
1 問題提起
一 木村祐子さん(NPO法人ぐーぐーらいぶ副理事長・元中野区非常勤職員)
NPO立ち上げにいたる経過/NPO法人ぐーぐーらいぶの組織/NPOによる業務受託の現状と課題
二 小畑精武さん(自治労組織局)
外部委託の現状/民間委託労働者の実態/入札・委託契約における問題/「公正労働基準の確立」と委託労働者の組織化、自治体単組、市民との共闘/価格入札から政策入札・「社会的価値の実現」へ
三 堀内光子さん(ILO駐日代表)
グローバルな視点から
四 中野麻美さん(弁護士)
公共部門における女性労働/その性差別性/臨時・非常勤雇用から民間委託(アウトソーシング)へ/均等待遇原則の適用をめぐる新しい問題
2 質疑応答
3――学習会「女性労働最前線」と、その後 【
はじめに――なぜ裁判を起こしたか
地方自治体には「非常勤」「嘱託」といわれる雇用形態の人が働いている。労働時間が短いという点では、民間で「パート」といわれる働き方と同じだ。非常勤・嘱託には、自治体職員や教員の再雇用の人、公務員や教員を目指す若い人もいるが、低い賃金で働く非常勤・嘱託職員の九割は女性である。
わたしは、七年間中野区で非常勤職員として働いて、その後「非常勤の賃金が低いのは女性に対する差別」であるとして裁判を起こした。本書は裁判で原告側が主張したことと、支援者の声の記録である。
民間と同様公務でも、非常勤などの非正規雇用はそもそも「土俵の外」にいる。
法的には「地方公務員法」という法律の適用除外とされ、自治体で働いていても公務員ではないといわれる。労働組合にも多くの場合は入れない。長年「本工(常勤職員)」中心に進められてきた労働運動では、非常勤・パートは「労働者性が薄い」「半人前」などといわれ、「あってはならない非常勤」と考えられてきた。このためわずかに組織化された臨時・非常勤の労働運動といえば、「正規」化要求が当然であった。正規職員にせよ、「土俵に入れろ」という要求である。
わを超える雇い止めを出している。
提訴から和解まで三年間。本書2章の座談会に登場する「中野区非常勤職員・賃金差別裁判を支援する会」は、中野区の非常勤・パート職員(当時)・区議会議員の五人と事務局の二人が中心メンバーとなって作った。原告はわたしひとりであったが、大切な判断は「支援する会」で相談して決めた。本書でわたし(原告)が「わたしたち」と呼ぶのは、この人たちのことである。
わたしたちは裁判を運動的に進めようと話し合い、事務局とわたしの三人で「均等通信なかの」というニューズレターを一八号発行した。しかし、裁判中は原告・被告双方の書類を資料として掲載するのに精一杯で、十分な経過説明ができなかった。
本書は、裁判中にし残してしまったそれらのことをできる限り果たしたいとの思いで作った。
この本は次のような方たちに手にとってもらえたら、本当にうれしいと思う。
自治体、独立行政法人化の進む国家公務員、民間の、非常勤・嘱託・臨時・パート・アルバイト・派遣など「非正規」雇用で働く人たち。
指定管理者制度にかかわる施設の職員、利用者、NPOで働く人たち。
そして「正規」・常勤で働く人たち。
目次
1章 提訴の内容(非常勤職員とは;仕事の実態;雇用と労働条件 ほか)
2章 裁判を終えて(座談会 公務パート裁判にかかわって;学習会「女性労働最前線」;学習会「女性労働最前線」と、その後)
3章 資料編(証拠説明書(甲号証・乙号証)
賃金格差一覧表
鑑定意見書(清水敏さん(早稲田大学)) ほか)
著者等紹介
平川景子[ヒラカワケイコ]
1962年生まれ。千代田区の社会教育指導員として1年半、中野区女性会館の学習コーディネーターとして7年間働いた。おもに、幼い子どもを持つ女性に向けた保育つき講座を担当。非常勤職員の労働運動にも取り組んだ。中野区の財政健全化推進プランにより職が廃止になったので退職、中野区非常勤職員・賃金差別裁判の提訴にいたる。現職は大学教員、専門は社会教育、女性の主体形成
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