出版社内容情報
戦時下帝国議会での「粛軍演説」「反軍演説」――議会史の花と謳われた演説の達人。明治の人権派弁護士から政治家に転進した“憲政擁護の闘将”斎藤隆夫が歩んだ、大正・昭和の政治史が時を超え21世紀に甦る。“立憲主義”の理想を堅持した大正デモクラシーの権化、実録斎藤隆夫小伝。
はじめに
第一章 生いたち
第二章 東京専門学校入学
第三章 弁護士としての斎藤隆夫
第四章 イェール大学法科大学院留学
第五章 弁護士再登録と政界への出馬準備
第六章 立憲政治家の誕生
第七章 大正デモクラシーと斎藤隆夫
第八章 大正デモクラシーの敗北
第九章 田中義一内閣と軍国主義の確立
第一〇章 政務官としての斎藤隆夫
第一一章 政党内閣の崩壊と議会の凋落
第一二章 日本型ファシズムと斎藤隆夫
第一三章 粛軍演説から反軍演説へ
第一四章 衆議院議員除名と政党の自殺
第一五章 敗戦と最後の政治生活
あとがき
資 料
年 譜
はじめに
斎藤隆夫(さいとう・たかお、一八七〇―一九四九年)の名は、現在、何よりも「粛軍演説」、「反軍演説」で人々に記憶されている。
歴史教科書に斎藤の名がわずかに登場するため、時折、大学入試に出題されることもある。
大正デモクラシーを体現しているともいえる斎藤が、どのような人物であったのか、本書の課題はこれを追求することにある。
斎藤の職業が弁護士であったことは、彼が帝国議会史を代表する立憲政治家の印象が強烈である為、あまり知られていない。
斎藤は、兵庫県但馬地方の農民階級の出身で、自身も少年の頃、農作業に従事し、学問の夢断ちがたく家出同然に上京し、東京専門学校(現在の早稲田大学)行政科に学んだ立志の人である。
弁護士試験に合格し、わずか二六歳で弁護士登録をした斎藤の最大の関心は、憲法、政治学であった。
とりわけ、斎藤は、民衆の間に人権思想が根づかなければ、到底、日本は欧米に追いつくことが出来ないと確信し、「人権の確立」、「立憲政治の定着」を自らの課題とし、弁護士活動の傍ら、研究活動、啓蒙活動に心血を注いだ。
斎藤のこれらの活動は旺盛で、若くして「帝国憲法論」を著し、又、議会の擁護、発展こそ帝国憲法にわずかに認められた外見的な人権保障を実質化する道であると固く信じ、弁護士から政治家に転進するのである。
斎藤の弁護士活動は、今日、ほとんど忘れ去られているが、若き日の農民生活と苦学、都市の社会問題と貧富の存在の体感が弁護士としての斎藤の思想に大きな影響を与え、彼を人権派の弁護士に成長させたのであろう。
ともかく、斎藤は人権派の弁護士としての矜持を失わず、この立場を忠実に承継し、衆議院議員になり、政治家生活の最後まで「立憲主義」の理想を堅持したのである。
その意味で彼にこそ「立憲政治家」の名がふさわしい。
この「立憲政治家」がどのように誕生し、彼の思想形成が如何なるものであったか、さらに、その思想が政治生活の上でどのように実践されたのか、本書は彼の軌跡を追求し検証している。
斎藤が著した著作や論文は膨大にあり、さらに彼の衆議院議員としての国会演説は、「帝国議会衆議院議事速記録」にすべて登載されている。
政治家は政治的業績で評価されなければならないが、斎藤の場合、資料は散逸せず、ほとんど残存している。
その為に本書は、戦前の最も自由主義的な立憲政治家で義者である。
又、斎藤は国際協調主義の重要性を説いており単なる愛国主義者であったわけでもない。
本書のもう一つの課題は、これらの謬見を事実でもって正すことにある。
それが成功したか否かは読者に判断していただくしかないが、ともかく、本書は、斎藤個人の政治活動を軸として描くことによって、日本近現代政治史を鳥瞰している。
日本の現実政治は今曲がり角に来ているが、斎藤の思想を論じることによって、「自由主義」、「民主々義」、「革新」の本当の意味を知る契機となれば幸いである。
その時、民衆の政治家をめざした斎藤の思想は、「粛軍演説の」、「反軍演説の」という言葉を超え、私たちにとって現代政治を考える上での大きな指標となるであろう。
そのことを念頭において、本書を叙述することにしたい。
内容説明
戦時下帝国議会での「粛軍演説」「反軍演説」―議会史の花と謳われた演説の達人。明治の人権派弁護士から政治家に転進した“憲政擁護の闘将”斎藤隆夫が歩んだ、大正・昭和の政治史が時を超え21世紀に甦る。“立憲主義”の理想を堅持した大正デモクラシーの権化、実録斎藤隆夫小伝。
目次
生いたち
東京専門学校入学
弁護士としての斎藤隆夫
イェール大学法科大学院留学
弁護士再登録と政界への出馬準備
立憲政治家の誕生
大正デモクラシーと斎藤隆夫
大正デモクラシーの敗北
田中義一内閣と軍国主義の確立
政務官としての斎藤隆夫
政党内閣の崩壊と議会の凋落
日本型ファシズムと斎藤隆夫
粛軍演説から反軍演説へ
衆議院議員除名と政党の自殺
敗戦と最後の政治生活
著者等紹介
大橋昭夫[オオハシアキオ]
1947年静岡県に生まれる。1970年静岡大学人文学部法経学科卒業。司法試験合格。1973年弁護士登録、静岡県弁護士会所属。現在は弁護士、静岡大学教育学部講師、静岡県労働研究所理事長。所属団体は、日本政治学会、静岡県近代史研究会、自由法曹団、日本労働弁護団
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